Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

ドキドキハラハラ自分を取り戻す!

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『13カ月と13週と13日と満月の夜』(2003年)アレックス・シアラー著 金原瑞人訳 求龍堂

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(できるだけ19時ジャスト更新!ムリだったら、21時までに更新笑)

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今日の一冊は、夏休み何か本読まなきゃいけなかったのに、読めてない!

っていう子にもおすすめ。だって、読み始めたら止まらないから。

 

スリリングでとても読みやすく、続きが気になるタイプの物語だけれど、単なるエンターテイメントというので終わってません。ちょっと考えさせられもする。

魔女が出てきたりもするけれど、これがねー、リアルなのですよ。

 

主人公は12歳の女の子で、クラスでどこにも所属してないような浮いてるタイプの子。

以下ネタバレ含みますので、物語の展開ごとお楽しみになりたい方は、このブログは閉じて本を読むのに取りかかってくださいね。あ、ただ、本の目次を読むだけでネタバレになるので、目次も読まないほうがよいかも。

 

といっても、物語序盤ですぐネタバレするんですけどね(笑)。

 

 

■あらすじ

 いわゆる入れ替わりものです。

親友がほしくてほしくてたまらなかった赤毛のカーリーのクラスに転校生メレディスがやってきます。両親は既に他界しているメレディスは、おばあちゃんと二人暮らし。カーリーはその子が親友になってくれないかなあと願っているのですが、彼女はなんだか冷たくて。そして、なぜかおばあちゃんを監視しているような感じ……。

 

あるとき、メレディスのおばあちゃんと話す機会があったカーリーは、おばあちゃんから聞いた話に目を丸くします。なんと、メレディスの中身は魔女で、もともとはおばあちゃんだった自分の身体と、若いメレディスの身体を入れかえてしまったというではないですか。そんなの信じられるわけない。でもでも、様子を見てると、孫のメレディスとおばあちゃんの立場が逆転しているように見える……。

 

どうしたら、本物のメレディスを救える?

一人の女の子が勇気を振り絞り、自分の頭で考え行動する物語。

 

 

■邪悪なものは優しい顔をしている

奇想天外なストーリー!?いやいや、これがなんともリアルなのですよ。

本当に悪い人って、みじんもそんな素振りは見せずに近づいてくる。邪悪なものって、目的を達成するまでは、親切な顔、美しい顔、信頼されるに足る何かを持ってやってくるんですよね。それ、忘れちゃいけない。

 

そもそも、なぜ、人(って魔女だけれど)は長く生きたいんでしょうね。不老不死を求めておかしくなる話って、いっぱいありますよね。アニメ映画のルパン三世の中にもあったなあ。

 

確かに、年を取ると身体がいうことをきかなくなり、関節は痛むは、目はよく見えないわ、など不自由なことがいっぱい。若さあふれる身体、それはもうそれだけで魅力的!そのときは気づかないけれど……。

だから、その頃を懐かしむ気持ちは分からなくもないけれど、“執着”っていいことないですよね。そんな、老人の悲哀の気持ちを体験できるだけでも、この物語は読む価値ありです。 

 

■いまを味わうために生きてる

もちろん、それだけじゃありません。この物語を読むと、月並みな言い方になっちゃいますが、“いまを生きる”ことのすばらしさ、“自分が自分であること”の大切さが身に染みて分かるんです。

 

魔女のようにあんなに醜い思考で、ただただ生きながらえても何になるんだろう……。長く生きるだけが素晴らしいんじゃないよね、いまをちゃんと味わって生きてるからこそ生きてる価値があるんだよなあ、って実感できるんです。そして、家族の絆。これは、ハウツー本ではできない、物語を追体験しないと実感できない感覚。

 

 

■コロナ禍をどう生きるのか

 ところで、個人的には、この物語が、不安視するあまり色々なものがズレていってしまっている、いまのコロナ禍とも重なってしまいました。飛躍してると言われるかもですが、個人的に。

 

命は大切。ええ。

でも、なぜ大切なの?って。煽り情報をすべて鵜呑みにして、自分で調べることもせず対策だけを練る……何のために?どれだけ対策しても、不安に陥り、疑心暗鬼になり、他人を批判したくなってくる人が少なくない。

 

以前、恐れるあまりに消毒しすぎて、体調を壊した方を知っています。その方は、無症状の子どもたちが感染を広げてると信じ込み(無症状で感染広げるって……どうやって?)、子どもが公園で遊んでる姿を見かけると怒鳴るとおっしゃってました。子どものせいで、老人が危ない、って。子どもは家にいろ!って。恐れるあまりに、別の精神的な病気になった人も知ってます。

 

好き勝手して他人に迷惑をかけることは当然違うけれど、できる範囲で、自分の頭で考えて、直感を信じていまを味わうこと、楽しむこと忘れたくないなあ。笑って楽しんで免疫あげることが、一番の対策じゃないかな。

 

また、この物語を読み終えるとね、しみじみ幸せを感じるんです。誰かに乗っ取られることなく、自分の中身が自分の身体にあることを!

 

魔女ってね、いわゆる魔女の形をしてないかもしれない。言ってみれば煽り報道をするテレビやネットの情報も部分的な魔女といえるかも。それらに思考乗っ取られてない?それは本当に自分の思考?

 

制限があろうとも、まだ私たちは自分の意志で動ける、この恵まれた環境。

自分を取り戻そう、って思いました。

 

エンターテイメント性もありながら、ふと立ち止まり大事なことを思い出させてくれる、そんな物語でした。