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朝晩涼しくなってきたと思いきや、また日中は蒸し蒸しと暑い日が戻ってきちゃいましたね。というわけで、先日秋の本を紹介したばかりですが、今日の一冊は、また夏に舞い戻り~!
【『すももの夏』あらすじ】
休暇に訪れたフランスで、母が入院し、子どもたちだけでホテル暮らしをすることになったイギリス人の私たち。五人の姉弟はそれぞれ、イギリスでは会ったこともない人々と過ごし、大人の世界の裏側をかいま見、とんでもない事件にまきこまれていく…。作者ゴッデンの体験に基づいて書かれた、ロマンスとミステリーに彩られた初期の傑作。(出版社HPより転載)
こ、れ、は!!!
すごく信頼できる選書をしてくれるTさんからのおススメ。やっぱりハズれないなあ。好きです。内容が大人っぽいので、中学生だったら早熟な子からおススメ。ルーマー・ゴッテンは『ディダコイ』もそうだったのですが、ちょっと読書体力のある子向けかも。読者もまるでその場にいるかのような気持ちにさせてくれる描写が、読書に慣れていない子は途中で飽きちゃうかもしれませんね。
ちょっとミステリー要素もあるので、今回は内容はあまり掘り下げたくないのですが、異国の香りがしてくるのがたまらなく好きでした。
こんな感じで…
ひなたの土のにおいとひんやりした漆喰の壁のにおい、太陽に暖められたジャスミンとツゲの葉のにおい、草に宿る露のにおい。ホテルと庭に立ち込めるムッシュー・アルマンの料理のにおいと、ホテル自体から漂う濡れたシーツや家具磨きのにおい、そして、決まって、かすかな下水のにおい。それから音も聞こえてくる。〈レ・ゾイエ〉だけに結びついているように思える音が。建物の壁に沿って並ぶ、ポプラの木のさやさやいう音、厨房の蛇口から水が流れる音と、それに混じってジ超える甲高いフランス語。犬のレックスが振る尻尾が床に当たって、パシパシと響く音。川に浮かんだ洗濯船から聞こえる、板に選択物を叩きつけるパンパンという音。上流に向かうはしけが蒸気を吹きあげるポンポンという音。そしてモリセットの単調な歌声(彼女はいつも鼻歌を歌っていた)。トワネットとニコルが、上の階の窓ごしにどなり合う早口で大声のフランス語。遠くから聞こえるかすかな町の喧騒と、近くで魚のはねたり、すももが木から落ちる音。(P5-6)
いわゆる心配ごとから解放された、ただただ楽しい夏休みのお話ではありません。生涯忘れられないような輝いた日もありますが、嫌な思いや複雑な思いもいっぱい抱えた異国の地での夏。成長の痛み。
これが、実話に基づいているというから、もうびっくりです。さすが、アムール(愛)の国、おフランスならではの愛憎劇もありますが、子どもの目から見ているので、どこか客観的で冷めていてそれもまたいいんですよね。大人って、滑稽だなあ、って。
そして、この物語には、“はざま”にいるものだけが見える景色がいっぱい。
少女から大人へ。
13歳の夏、一人で迎えた孤独な初潮。突然大人の女性の仲間入りをしたように見える美しい姉への嫉妬。謎めいていて、冷淡なところもあるけれど、不思議な魅力のあるエリオットへの複雑な思い。主人公である作者が、いわゆる性格のいい子じゃないところもすごくいい(笑)!
5人の姉弟たちは、親からは解放されているけれど、知らない大人の保護下にあったり、それもこの夏でしか味わえなかった立ち位置。
ほとんどの時間は従業員側にいて裏側をのぞけるけれど、時にお客さま側にもいる。
ああ、あまり内容を書けないのがもどかしい!
ちなみに映画化もされていたようです↓
日本人にありがちな“観光旅行”とはまた一味違う、“異国への滞在”を楽しめる一冊です。魅惑のバカンスをぜひ。