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今日の一冊は、先日ご紹介したこちら『ペーパーボーイ』の続編です↓
《『コピーボーイ》あらすじ》
大学進学をひかえ、新聞社でコピーボーイ(雑用係)として働くヴィクターのもとに、年上の友人・スピロさんの訃報が。故人との大切な約束を果たすため、彼はひとりミシシッピの河口を目指す。吃音のコンプレックスと格闘しながら自分の世界を広げていく、17歳の夏のできごと。前作『ペーパーボーイ』の、6年後の物語。(出版社HPより転載)
今回は、まさにロードムービー!まるで映画を見ているかのようでした。
日常の中にも、もちろんきらめきはいくらでも見つけられるし、日々味わい深くもできる、と思っています。ですが、やっぱり旅って人を大きく成長させるんですよねえ。
それは、刺激を求めてというよりも、新しく世界が広がるから。新しい人たちとの出会い、文化との出会い。それによって、何が起こるか。主人公ヴィクの言葉を借りれば、
自分の目でものを見て、いろんな人たちに会い、それまで知らなった感情を持つこと
になるんですよねえ。 それまで知らなかった感情!それは、とてもとまどったり、ワクワクするけど、確実に世界が広がります。
ヴィクがニューオリンズで出会う人たちは、ヴィクの両親に比べて幸せそうだし、生活は楽しそう。とーっても魅力的!経済的にはヴィクの家族のほうがいいかもしれないけれど、でもヴィクはニューオリンズの人たちに”豊かさ”を感じるんです。
でも、それは旅人が見る彼らの一面。川沿いの生活は厳しい面もある。そんな現実も描かれています。
さて、今回の物語では、例の魅力的な博識な老人スピロさんはもう亡くなっているのですが、いやはやその存在感たるや!残された人々の心の中には生き続けるということが、よおく分かりました。例えば、ある日主人公は、スピロさんと交わしたこんなやりとりを思い出します。
人は書物や絵画や、そして家でさえも、決してほんとうの意味で所有してはいないのだ、といった。われわれはただ、この世にいるあいだ、そういうものを借りているだけなのだ、と。そして、人がなにかを所有することができるとすれば、それは、さわったり、手にもったりできないものに限られる。たとえば本から得た知識や、友情や、よい思い出がそうだ、と。(P.33)
またあるときは、ニーチェのツアトゥストラの言葉をかみ砕いて優しく教えてくれたことを思い出します。こんな風に
わたしが自分の道をきみに示したとしても、それはわたしの道でしかない。唯一無二の道など存在しない。だから、われわれは、自分にもっともよく合った道を自力で見つけなければならないのだ(P.65)
まさに、スピロさんは、自分の遺灰をミシシッピの河口に撒いてほしいという願いをヴィクに託すことによって、実はヴィクが自分に合った道を自力で見つけるという旅をプレゼントしてくれていたんですね。スピロさんの旅の代理じゃない、ぼくヴィクの旅。
いろんなものをプレゼントしてくれる物語です。
最後に、将軍と呼ばれているこれまた素敵な大人が、ヴィクに行った言葉で終わりますね。それは、ヘミングウェイの『老人と海』がただ一人の男が一匹の大きな魚を釣り上げるだけの話じゃないと言ったことに対してのものでした。
傑作はみなそうだが、言わんとしていることは、読む者がなにを求めているかで変わってくる(P.107)
さあて、この物語が何を感じさせてくれるのか。それは、読む人が何を求めてくるかで変わってきます。色々と響く言葉がちりばめられていますし、近づいてくるハリケーンをどうするのか、ドキドキハラハラの冒険ものとしても純粋に楽しめます。
私の心の中にも、すっかりスピロさんが住み着いてしまいました。
夏の嵐にぴったり、とっても爽やかな物語でした!