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今日の一冊は、物語に没頭したいときなど、時間があるときに一気読みしたい一冊。
ちょっとサスペンス入っているので、日中ではなく、なんとなく夜な夜な読みたい。
うん、面白いです。ヴィクトリア朝のロンドンにタイムトラベルできます!
原題は、船の名前からとった『THE DECEMBER ROSE』(12月の薔薇号)というタイトルなのだけれど、私はこの『テムズ川は見ていた』という邦題が秀逸だな、と。読み終えると分かるんです。おお、物言わぬテムズ川よ、お前は全てを見ていたのか……!って。不穏な雰囲気が続く物語なのですが、最後はさすがの児童文学!ハッピーエンドなので、ご安心ください。
さて、物語の舞台は、さきほども述べた通り、ヴィクトリア朝のロンドン。煙突掃除の少年バーナクルは、煙突の中にいるときに盗み聞きをするのが習慣になっており、あるとき偶然イギリス政府上層部の密談を耳にしてしまいます。ところが、煙突から落ちて、盗み聞きをしていたのが見つかってしまい、さらには思わず机の上にあった金のロケットと銀のスプーンをつかんで逃げ出てしまったものだから、大変!逃走中、はしけ(河川・港湾などで大型船と陸との間を往復して貨物や乗客を運ぶ小舟)の番人であるゴズリングに助けられるものの、秘密警察クリーカー警部の執拗な追跡を受けて……さあ、どうなる!?
クリーカー警部は、レ・ミゼラブルのジャベールを彷彿とさせます。
そして、この主人公バーナクルがね、いやあ、あまり賢くなくて笑。そこがリアリティがあっていいんですよねえ。煙突少年といえば、『水の子トム』や、『黒い兄弟』ともリンクします。そちらも、ぜひ↓
賢くない、なんて書いちゃいましたけど、だからこそ、自分のせいでこれ以上大好きな人たちを不幸にしたくない!というバーナクルのただただそれだけのまっすぐな思い、叫びが胸に響きます。変に賢くないバーナクルの素朴な訴えだからこそ、届く言葉がある。
サスペンス、ミステリー要素ありの物語なので、あらすじにはあまり触れられないのだけれど、印象に残ったのは、有名な弁護士でもある人のこんな言葉。
正義?……(中略)……わたしにはわからんよ。ときどきわたしは『こんなの不公平だよ!』と泣き叫んでいた子どものころのほうが、今よりかしこかったのではないか、と思うことがあるよ(P294)
ああ、分かる。大人になると、変に矛盾を受け入れられるようになってしまったり、忖度しがち。でも、国家の法は常に弱者の味方でもないし、ときに不公平。それよりも大事なのは、“自分の掟”、“心の法”なんだなあ。良心に従うとは、ということを考えさせてくれる物語でもあります。
物語の世界に没入したいときにどうぞ。