原題:The King of Mulberry Street
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今日の一冊は、“命さえあれば道は切り開ける!”ということを実感させてくれる物語。
今の時期読めてよかった。
いまはまだ絶壁に立たされていなくても、今後そうなるんじゃないか、と心配されてる方も多いと思うんです。でも、こういう物語読むと、ホント命さえあれば這い上がれる!って思い出させてくれます。
いやあ、すごいです。これが作り話じゃなくてね(ノンフィクションではありませんが)、19世紀から20世紀にかけて実際にいくらでもあった話というから驚き。
《『マルベリーボーイズ』あらすじ》
ある朝、ぼくはイタリアのナポリから新天地アメリカへ旅立った。たどりついたのは、イタリア移民がくらすマルベリーストリート。ひとりぼっちのぼくが持っていたのは、ぴかぴかの靴だけだった。19世紀末、ニューヨーク最大のスラム街を舞台にみずからの知恵と勇気で未来をきりひらく、ユダヤ人少年の物語。シドニー・テイラー賞オナーペアレンツ・チョイス銀賞受賞作品。小学校高学年から。(BOOKデータベースより転載)
絶版なのかしら(涙)。←児童文学あるある。
しかし、びっくりなのは、たった9歳の息子を母親が半ば騙すようにして、一人で密航させてしまうこと。もちろん、その方が子どもが幸せになれると信じているからの行動なのですが......。いくら今と違って情報がそんなにない時代で、アメリカンドリームのいい話だけが伝わっていたからって......。親戚とか引き渡し先があるならともかく、とりあえず行けばなんどかなる!って乱暴すぎない!?!?船だって危険がいっぱいなのに。
さらに、驚いたのはこの物語では9歳になっていましたが、作者の実際の祖父がたった一人でアメリカに密航してきたのは、わずか5歳のときだったというのです。えっ、未就学児やん!!!
■ユダヤ人に学ぶ生き抜く力
それにしても、ユダヤ人の人たちって毎度感心させられます。うなっていまうほどスゴイ!ウーリー・オルレブを読んでも思うのですが、生き抜く力がもうね、底力がすごい。逆境にめげない。選ばれし民と言われるのも頷いてしまうのです。
それにしても、この物語でもあの物語でもユダヤ人の人たちの強さは共通してるなあと思ったら、その秘訣はタルムード(モーセの伝えた「口伝律法」の文書群を集めたものらしい)に書かれているんですってね。だからかあ。←教養なくて今ごろ知る私。
その教えとは……
・どんなことがあっても生き延びる
・学ぶことをやめない
・消費より投資をしなさい(←物語の後半でキーとなってきます)
などなど。
まずね、どんなことがあっても生き延びるという教えがある。だから、彼らはどんな逆境に立たされても、希望を捨てないんですよね。生き延びるから、例えホロコーストにいようと(←これはオルレブの『砂の上のゲーム』での話ですが)学ぶことをやめない。
さて、この物語の主人公の母親も、乗船の際にこんなことを語りかけます。
「よく見なさい。いつもしているようにね。まわりをよく見て、そこでうまくやっていくためには、どうすればいいかを考えるの。よけいなおしゃべりはしないこと ー ただまわりを見て、頭を使いなさい」中略「……できるだけ早く学校にいって、自分の商売をはじめなさい。……」(P39-40)
ユダヤ人の人は優秀な人が多い、成功者が多いと言われますが、それは学ぶことをやめないからなんですよね。生まれつきじゃない。ビジネスセンスも、素質というよりも、ただひたすら教えを“実行・実践”し、行動に移してるからの賜物なんだなあ。
ちなみに主人公は、雇われて搾取される道を選ばず、サンドイッチを売るという商売を始めます。どこでなら高く売れるかを見極め、儲けたお金は消費に使うのではなく投資に使う。
こんな感じで、起業物語としても楽しめるのですが、もちろん時代も事情も違うので、実例として参考になるわけじゃありません。でも、物事への向き合い方、マインド、不屈の精神は、時代を超えて私たちを励ましてくれます。スタッフのモーチベーションのあげ方なども、今の働く世代にもぜひ読んでもらいたい。ポイントは管理じゃないんだなあ。任せる(=信頼する)ことの大切さ。管理職世代のサラリーマンにも読んでもらいたい。
■切り替えの早さと観察力が鍵
さて、主人公のドムが生き延びる際に鍵となったもの。それは、“切り替えの早さ”と“観察力”なんじゃないかな、って思います。
船でも、降りてからもひたすら観察して、どうすればいいのか頭をフル回転させるのです。今何が起こってるのか。そして、自分はどうすることがベストなのか。どうしてこうなったのかとか誰かを恨んでる暇はないんですよね。この切り替えの早さがなければ、生き延びる前に消えてしまったと思うのです。
起こってしまった状況にウダウダ言うのではなく、それに対してどうするか。
生き延びる人って、そういう切り替えができる人。
ツライ状況もそれほど暗くは書かれていませんが、この物語には、パドローネと呼ばれる子どもたちをこき使う、それはもう残忍でヒドイ雇い主が出てきます。この辺は目を覆いたくなってしまいます。もう誰も信じられない、という気持ちに陥りがちなのですが、良心は存在する(信頼できる大人もいる)し、友情も育まれるのでホッとします。ツライ場面もあるけれど、後味がよいのはやっぱり児童文学の良さ。
そして、どんな状況にあっても、誠実な性格の良さが光るパン・アレイ(本名ピエトロ)のような少年がいたことも、私は忘れない。大好きな登場人物でした。物語をいう形で、彼のことも残してもらえてよかった。
しかし、まあ、母親の願いがこもったピカピカの新しい靴がここまで彼を守ってくれるとは。母親に対する主人公ドムの心境の変化(納得のさせかた)も私は好きでした。幻想や期待ではなく、最後にきちんと現実を受け入れる。強いなあ、ああ、強いなあ。
人種差別がひどかった移民時代のアメリカの実情を知るには、有吉佐和子さんの『非色』(角川文庫)も忘れられない一冊です。こちらもぜひ。
【今日の一冊からもらった問い】
①我が身にふりかかったことを恨んでいる人生と、②さっさと切り替えて切り開く人生、どちらがよい?