Pocket Garden ~今日の一冊~

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じんわり心が温まる物語

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『スモーキー山脈からの手紙』(2015年)バーバラ・オコナー作 こだまともこ訳 評論社

※毎週月曜・金曜の19時~21時の間に更新中!

(できるだけ19時ジャスト更新!ムリだったら、21時までに更新笑)

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今日の一冊は、物語の季節は夏ですが、まるで寒い日に飲むじんわりと温まるコンソメスープのような物語。

 

さらりと読めて、人によっては物足りないくらいかもしれませんが、じんわり、いいんですよねえ。まるで良質なミニシアター系の映画を観たかのような気分。

 

舞台は、スモーキー山脈にある古いモーテル。そこを営んでいた老婦人アビーは夫に先立たれ、気力もなく金銭的にも物理的にも困ることがたくさんで、モーテルを売りに出すところから始まります。ところが、いままで全然お客様が来なかったのに、色んな偶然が重なって、同じような年齢の子どもを持つ三家族もやってきて......。

 

それぞれね、悲しみや怒りを抱えてるんです。母親が家を出て行ったことが受け入れられないウィロウは、いきなりモーテルを買い取って新天地でやり直そうとしている父親とギクシャク。ロレッタは会ったことのない産みの母親の死の知らせを受け、育ての両親と一緒に産みの母親の思い出巡りの旅。そして、カービーは素行の悪さが原因で、不良少年たちが集まる山にある学校へと送り込まれる途中

 

......とこんな具合で、どの子も要素的にはかなりドラマチック。でもね、作者は彼らを悲劇のヒロインやヒーローなんかに仕立て上げてないんです。それぞれ抱えてるものは大きいけれど、そこはさらさらと流れるように描く。悲しい出来事があるからこそ、人の優しさが身にしみる。変にドラマチックにならなくても、人生はやっていけるのかもしれない、とふと気づかされる。作者と訳者の優しいまなざしをそこに感じるんです。

 

個人的には、老婦人アビーの変化がぐっときました。夫がいなくなって、無気力になっていたところに、子どもたちがやってきてだんだんと生気を取り戻していくアビー。あれ、アビーってこんな魅力的な人だったんだ?

 

パートナーがいなくなるって、いままでも色々読んでどんな感情か知ったつもりでいたけれど、とってもシンプルに書かれていたのに、今回の物語が、個人的には一番我が身に置き換えて色々考えさせられました。多分、それは私も夫がいないとメンテナンス関連が一切できないからかも(笑)。電球かえるとき、請求書がきたとき、そういうときに喪失感を覚えるんだあ、って。読み終えた後は、ちょっと夫に優しくなりました(笑)。

 

そんなアビーは、いつも夫が最後に倒れたトマト畑で亡き夫に話しかけているのですが、とても印象に残った場面があるんです。それは、アビーが来る郵便物の中にウィロウの母親からの手紙を入れてくれ、と亡き夫に頼む場面。ウィロウは家を出て行った母親からの手紙を待って、待って、待ってるのですが、まだ1通も受け取ってなかったんですね。亡くなった人って、小さな奇跡を起こしてくれる力がありますよね。祈りを聞き届けてくれる(ときどき)。

 

ああ、私たちの人生も、こんな風に自分の知らないところで、色んな人の”祈り”に支えられているんだろうなあ、って。そう思ったら、こみあげるものがありました。本人には伝えないところで、自分も祈ってることって、いっぱいあるもの。

 

もう一つ印象に残ったのは、アビーが問題児扱いされてきたカービーを認めてあげる言葉をかけてあげる場面。いままで、こんな風に人に言ってもらったことがなかったというカービーの人生を思うと、泣けて泣けて仕方なかった。この子たちとかぶったから↓

jidobungaku.hatenablog.com

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やっぱり、人は人と出会って変わっていくんだな。生かされるんだな。人生って素敵だな、そんな風に思わせてくれる物語でした。