Pocket Garden ~今日の一冊~

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目をこらせば糸口が

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『ブロード街の12日間』(2014年)デボラ・ホプキンソン著 千葉茂樹訳 あすなろ書房

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周りからいいよ、いいよ、と勧められていたのに、なぜか殺人事件の話だと勘違いして読んでこなかった私。いやいや、感染症の話でした。ああ、もっと早く読んでおけばよかったなー、とも思ったけれど、今のコロナ禍の時代だからこそ身に染みるものもあり、いま読めてよかったなあ、と思う一冊でした!

 

2015年の中学生の部の課題図書だったようですが、小学校高学年からもじゅうぶん楽しめます。

 

『ブロード街の12日間』あらすじ

ひとり目の犠牲者は、仕立て屋のグリッグスさん。すさまじいスピードで、それは街をおおいつくした。夏の終わり、だれもが震えあがる「青い恐怖」が、ロンドンの下町ブロード街に、やってきた…!タイムリミットは4日間!街を守るため、13歳の少年イールが奔走する!ビクトリア女王治世下のロンドン。様々な病気の原因がまだ明らかになっていなかった時代に、状況証拠だけを重ね、「青い恐怖」と恐れられたコレラの真実に迫る「医学探偵」ジョン・スノウ博士。その助手を務める少年の視点から描かれた、友情、淡い初恋、悪党との対決もちりばめられたスリル満点の物語。

(BOOKデータベースより転載)

 

面白かったー!面白いというと語弊がありますね。とっても、興味深いお話でした!

フィクションで、主人公の少年イールは創作ですが、鍵となる人物たちジョン・スノウ博士やヘンリー・ホワイトヘッド牧師は実在の人物で史実をもとに書かれているので、とてもリアリティがあります。当時の街の景色、淀んだ空気やひどい匂いまでくっきり浮かび上がってくる。

 

それにしても、読んでいて思ったのは、疑問を持つことの大切さ、自分の目で見て確かめることの大切さ。

 

コレラがまだ空気感染だと思われていた時代に、異説を唱えるスノウ博士。みんながそうだと信じているときに、別の説を唱えるのって、ホントに勇気がいりますよね。自分の信頼や地位(仕事)も失ってしまうかもしれない。信じてくれない周りを説得するためには、もう一つ一つ足でまわって、ひたすら証拠を集めるしかないんです。ここで、主人公のイールが大活躍するわけです。

 

きっと、いまのコロナやマスクやワクチンで感染防ぐ説も、数十年後には、まったく違う説で説明されているんだろうな……。そんなことも思いました。メディアやネット情報を鵜呑みにするのではなく、目をしっかり開いて、自分で確かめよう。改めてそう思いました。

 

もう一つ、いつも理系絡みの児童文学で感動させられるのが、本当に研究が好きな人は肩書にこだわらないってところ。無学であろうと、貧乏であろうと、洞察力のある子、自分で疑問を持てる子は助手に抜擢する。ここに、すごく感動してしまうのです。

ダーウィンと出会った夏』も、『ベルさんとぼく』も、『海辺の宝もの』もそうだったなあ。学問への姿勢って、これよね!って。受験でふるい落とされるものじゃない。

 

そして、今回もやはり“私ならどうする?”を突き付けられました。

これだけ人々を恐怖に陥れた“青い恐怖(コレラ)”ですが、それでも看病する人たちが必ずいるんです。自分もうつるかもしれないのに。それでも、死体に敬意を持って運ぶ人がいるんです。ここ、心動かされました。自分ならできたかな?そう問わずにはいられない。

 

コロナに感染したら、周りに謝罪するいまの社会。周りからの非難の目の方がコワイいまの社会。この物語の時代は、感染したら周りは同情し、心配し、自分は何か助けになるかを考えていた。医学は今よりも未熟で、それを考えるといまよりも不安は大きいはずなのに、他の人のために動けた当時の人たち。

 

考えさせられます。

 

ちなみに、この物語はこちらのノンフィクションからインスピレーションを得て書かれたそう。こちらも読みたいな↓

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『感染地図:歴史を変えた道の病原体』(2017年)スティーヴン・ジョンソン著 矢野真千子訳 河出書房

 

重いテーマのように思えますが、それよりも社会的弱者でありながら、自分で人生を切り開いていくイールの清々しさが印象的な物語。児童文学らしい、希望に満ち溢れた終わり方も素敵ですので、ぜひ。