Pocket Garden ~今日の一冊~

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死の悲しみを乗り越える

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『さよなら、ママ』(2016年)キャロル・ガイトナー著 藤崎順子訳 早川書房

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今日の一冊はこちら。

世の中の大半の人は、自分よりも先に親を見送ることになると思うのですが、中には早くに親を亡くす子もいます。そのツラさはなかなか想像できなくて、なんて声をかけたらよいのか、かけないほうがよいのか分からなくて迷ってしまう。

 

そっとしてほしい遺族に対して、手紙を書いたのは果たしてよかったのか?触れられたくない相手の心に、ずかずかと踏み込みむことになったのではないか?ずっと気にかかっていたところに、このタイトルが目に飛び込んできたのです。

  

『さよなら、ママ』内容

 

コリーナはワシントン郊外に住む13歳の女の子。いたって普通のはずだったのに、コリーナの世界はある夏を境に突然崩れてしまった―そう、ママがガンで亡くなってから。悲しみで抜け殻みたいになったパパ。何事もなかったようにふるまう友だちもいれば、無神経な言葉を投げつけるクラスメートもいる。がんばって普段の生活を続けようとするけれど、ふとした瞬間にママを思い出して、涙が止まらなくなったりする。恋だってしたいし、おしゃれだってしたいのに、「ママがいない」ことが、コリーナの生活を変えてしまった……。母親を亡くしたひとりの少女が、心の痛みを受け止め、恋や日本への旅を通して悲しみを乗り越えていく姿を四季を通して追った、心せまる小説。対象年齢、10歳以上。(出版社HPより転載)

 

重いテーマですし、YA(ヤングアダルト、中高生向けの分野)って下手するとセンチメンタルになりがちなので、実はちょっと警戒しながら読んだんですよね。というのも、同時期読んでいた大人の小説が、こうしたデリケートな話題をセンチメンタルに扱ってて、不快感を覚えたから。

 

でも、こちらは、よかったです。作者のキャロル・ガイトナーさんはグリーフケア(喪失体験)の専門家として幅広くカウンセリングにあたってきたそうです。

ああ、だからか。

読者を感動させるものとして、このテーマが利用されてる感を一切感じなかった。

もちろん、みんながみなこの物語の主人公コリーナのように感じるとは限らないし、ケースバイケース。

 

ただ、この物語を読んでひとつ分かったことは、

 

“なんと言葉をかけたらいいのか分からないけど、想っています”

 

ということだけは伝えたほうがいいということ。

 

コリーナはなかなか難しい。でも、きっとこれが大半の子。気にかけてくれる人に対しては、“放っておいてよ、おせっかい!”と感じる一方で、何も言ってこなかったり、その話題を避けられたりするのにも複雑な思いを抱く。話題にされたくないと思う人に限って聞いてくるのに、一緒に語り合いたいお父さんはその話題に触れてくれない。痛みに寄り添うって、本当に難しい。

 

寄り添ったつもりが、おせっかいと煙たがられるかもしれない。でも、それも行動を起こさなければ分からないこと。たとえ距離感の取り方に失敗したとしても、それを恐れずに、やっぱり歩み寄りたい、って私は思いました。もちろん、相手が嫌がったら、すっと引くことには注意して。

 

原題は“IF ONLY”なのですが、もしあのとき〇〇さえしとけば、〇〇さえ言っておけば、〇〇だったならば……たくさんのif onlyという後悔が、残された者たちには駆け巡りますよね。コリーナがお医者さんを責めたくて手紙を書いた気持ち、分かるなあ。

私も母が救急搬送されたときのお医者さんの冷たさに傷ついたし、伯父が亡くなったときは葬儀場でへらへら笑いながら煙草吸ってた坊さんにふざけるな、と思ったのを思い出しました。

 

あ、でも、簡単に“分かる”と言われるのが一番嫌だそうです。その人の気持ちは、その人にしか分からないですもんね。

 

そんなコリーナは、最初は嫌だなと思っていた、同年代の子たちとのグリーフケアグループに次第に心を開いていきます。病死、戦死、交通事故死、自殺などなど親の死因もそれぞれで、誰が一番つらいとかそういうことじゃない。If only…みんな〇〇さえなければ、〇〇じゃなければ、という気持ちに押しつぶされそうになっている。

 

やっぱり時間が解決するしかないのかもしれない。

でも、気持ちは押し込めずに、誰かと悲しみをシェアすることも大切なんだな。

詮索好きなおせっかいな誰かとではなく、本当に心に寄り添ってくれる誰かと。

後者になれたらな。

 

ところで、ある先生にね、コリーナはこんなことを聞くんです。”母親がいないことに慣れるものなのか?”と。先生は、こう答えます。

 

「はいといいえ。両方ね。でもね、忘れちゃいけない大事なことがあるの。あなたのお母さまも、わたしの母も、わたしたちの一部になってる。母の愛情は、子どものなかにいつまでもあるのよ。誰もそれを奪うことはできないわ」(P.166-167)

 

そう、故人は私たちの一部になってる。だから、故人の素敵だったところ、生きてる私たちが引き継いでくんですね。遺族の気持ちが分かるなんて言えない。でも想像して思いやる、その想像力は失いたくない。

 

グリーフケアといえば、こちらの本もよかったです。↓

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『命日占い』(2020年)かげした真由子著 サンマーク出版

いわゆる占いの本という感じではありません。私自身は、あまり占いには興味がないというか、むしろ縛られたくないと思ってしまうほう。ですが、こちらは故人からのメッセージを受け取れたような気がして、読んでいて救われました。

 

あとは、しつこいようですが(笑)、藤井風くんの『帰ろう』ですね。

毎晩聞いて、亡き友思って泣いてしまいますが、浄化された気持ちになれます↓

www.youtube.com

 

 悲しみに蓋をするのではなく、悲しみを抱きながら、それでも日々の小さな輝きや喜びに目を向けていく。だって、私たちは、故人の分も生きてているのだから。