Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

人間というものについて考えさせられる本

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『世界のはての少年』(2019年)ジェラルディン・マコックラン著 杉田七重訳 東京創元社

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今日の一冊は、ぜひ文庫本にしてもらいたい!!!と思う一冊でした。

だってね、いきなりお値段の話で申し訳ないけれど、税込3,080円って、正直なかなか手が出ないですよね。図書館でも、届いてほしい人たちはハードカバーだと手を伸ばさないかもしれない。大人にも手に取ってもらいたいから、はいっ、文庫化希望。

 

で、内容ですが、サバイバルものなのですが、極限に置かれたときの人間というものがよく分かり、“自分だったら?”と問わずにはいられない物語なんです。サバイバルの技術そのものにも目を見張りますが、それ以上に心理的なものが、ハラハラの緊迫感。

 

舞台は、1727年の夏、スコットランドセント・キルダ諸島。

海鳥を捕獲するために、毎年その無人島に9人の少年たち+大人3人が渡るんですけどね、この年はなんと迎えが来なかったのです!

 

わけの分からない少年たち+大人3人。

一体みんなどうしたんだろうか?

世界が終わってしまって、自分たちだけが気づかれずにこの世に残ってしまったの???

 

何が、ゾッとするって、彼らがいるのは海の孤島じゃないんです。

目の前に島だって見えるし、船さえあればすぐにでも帰れる距離。手を伸ばそうと思えばつかめそうなのにつかめないという状況が、余計に苦しいんです。

 

迎えに来ない理由が分からないって、とてつもない不安ですよね。いくらでも悪い方向に考えられる。聖書でいわれている終末かもしれない。

そんな状況でも、意地悪な子はますます意地悪に楽しみを見出すし、卑怯な人間はますます卑怯になるのが、もうね……。平常時にはそれなりに立派に見えていた大人も、自暴自棄になったり。

 

大人の文学だったら、もっと希望がなく、もっと人間のどろどろした部分を描き出すのでしょうが、そこは児童文学。甘さはなくとも、どろどろの一歩手前のところで止めておいてくれるので、絶望にはつながらないでいられます。そこがよい!

手前といっても、人間の持ついやらしさもちゃんと描いてるので、ああはなりたくないと考えさせられます。

 

さて、そんな過酷な状況の中、主人公クイリアムはいかにして、希望を持ち続け、仲間を励まし続けられたのか。

 

その秘訣は……妄想力!

想像力ですね。ただ、彼の一番の支えとなっていたのは、片思いで好きだった女の子と妄想の中で会話をしていたことなので、妄想力とあえて言いたい。これねえ、本当に力を持つんですよ。ばかにできない。

 

そして、もう一つは……物語自体が持つ力の大きさ!

人には物語が必要なんだな、ということもよく分かります。

 

ところで、なぜ船は来なかったのか。

 

私自身の予想は、悲しいかな、当たってしまったけれど、現実はもっとひどかった。この物語は、実話に基づいているのですが、実話はもっと悲しい結末とというから驚きです。

 

人間というものについて考えさせられる物語です。