Pocket Garden ~今日の一冊~

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怪談嫌いな人にもおススメ奇譚

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『遠く不思議な夏』(2011年)斉藤洋作 偕成社

 

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今日の一冊は、なんとも不思議な魅力のある物語。

こういう田舎を体験したことがない人でも、どこかノスタルジックに感じるのは日本人のDNAのなせるわざ!?

 

昭和30年代、夏休みの間だけ母の故郷の田舎に帰省した際に、出会った不思議な出来事の数々。

 

いわゆる怪談話ではありません。

怪談嫌い!肝試しとか何が楽しくてやるのかワカラナイ!本気で嫌がってるのに、「子どもは嫌がりながらもコワイ話好きよね」と信じて色々仕掛けてくる大人って何なの!?!?という私ですら、すーっと素直に受け入れられたちょっと不思議な出来事の数々。それらの物の怪たち、基本子どもにしか見えないんですね。それも数え歳で12歳になる子どもまで。

 

狐に化かされたり、新盆で死者が見えてしまったり(←このエピソードはちょっと怖かった)、神隠しにあずきあらい.などの物の怪たち。座敷童にはほっこり、でした。大人たちも、かつて子どもだった頃には見えていたこともあり、こういう出来事を淡々と自然に受け入れてるところがいい。深追いせず、「そういうもんだ」という感じ。

 

これが作者の斉藤洋さんの実体験なのか、それとも創作なのか気になる人も多いようですが、とても真実味があるんですよねえ。こういう世界は「ある」と個人的には思います。

 

確かにちょっと怖いというか不気味な部分もあるのですが、人間「だけ」じゃない世界は、どこかほっとする部分もあるんです。怖れや人間以外のものを敬う気持ちを失う方が、こわいな、って。

 

小学生でも読めるような優しい文章なのですが、大人が読むと、本家の没落とか田舎特有の人間関係も興味深い。

 

中でも、個人的に一番惹かれたのは、きっつぁんという人物です。主人公の少年が危ない目に合いそうになるとき、スッと手助けしてくれる人物で、大人だけど「見える」人。ふらふらして何をしているのかよく分からないけれど、村人からも一目置かれている存在。

 

彼は何者なんだろう?異界のものと交流できて、人間側を守ってくれているようでもある。でも、そういう物の怪に敬意を払わない人たちに対しては、特に親身になって助けようとするわけでもない。主人公を助けてくれるときも、すごくさりげないんです。“狭間にいる者”......そんな言葉が思い浮かびました。

 

読了後も、きっつぁんは何者だったんだろう、ということを考え続けています。

 

日本ならではの物語です。ぜひ。

 

【今日の一冊からもらった問い】

物の怪がいない世界は、どんな世界になる?