Pocket Garden ~今日の一冊~

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コロナは敵?

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『ミセス・タッカーと小人のニムビン』(1986年)パトリシア・ライトソン作 百々佑利子訳 岩波書店

 

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今日の一冊はコチラ。

 

ずーっと積ん読(つんどく)状態だったのですが、コロナのことがあって、自然と人間の関係性を改めて考えさせられていたので読もうと思った次第。

 

というのも、こちらオーストラリア原住民アボリジニーの口頭伝承に出てくる大地の精霊、小人のニムビンが出てくるんですね。 

 

『ミセス・タッカーと小人のニムビン』あらすじ

老人ホーム生活に飽き飽きしていたミセス・タッカーは、ある日逃げ出して、兄が遺した人里離れた川の近くの一軒家に移住する。しかし、何かがおかしい。小動物や昆虫たちを意のままに動かす太古の精霊ニムビンとタッカーおばあさんが、開拓小屋の所有権をめぐる対決が始まる。’86年度国際アンデルセン賞受賞。

 

最初に言いたい。

 

ああ、どうして。どうして、どうしてこの表紙と挿絵なの~!?!?

いやね、小沢良吉画伯が素晴らしいのは分かります、分かってるんです。

でも、やっぱり雰囲気が東洋になってしまって、オーストラリアじゃない(涙)。

オーストラリア版とUK版はこんな感じ↓

 

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■ 人間が支配できると思うのは傲慢

 

ミセス・タッカーは自立心旺盛で、気の強いおばあさんだし、ニムビンはニムビンで決して親しくなりたいと思うような性格じゃない。だから、二人の攻防戦は全然ほのぼのとなんかしてません。あら、精霊が出てくるのね♪キラキラ~、ふわふわ~、といった感じじゃないです(笑)。

 

自然の精霊たちは決して人間に優しく(甘くない)ないし、人間側の自分としては、自然が好きなつもりでも、やっぱりミセス・タッカーの味方をしてしまう。どこで折り合うか。

 

ああ、こういう物語が最近足りないなあって感じます。

 

人間が全てを支配できると思うのが傲慢なんですよね......。

ミセス・タッカーだって、自然とたたかうのは愚かだと分かってる部類なんです。それでも、自分の生活を守るために、時として闘わざるをえない。共生の道はないのか、そんなことを考えさせられます。答えをくれるわけじゃないけど、問いをくれる。それが大事。

 

■コロナ(自然)との共存を模索する

 

コロナもね……ウイルスは自然の一部なんです(人工説もありますが)。こんなこというと叩かれそうだけれど、「コロナに負けない!勝つ!」というスローガン的な言葉を頻繁に目にするにつけ、個人的には違和感を覚えるんですよね。かかってしまったら、もちろん生き延びることに専念するし、だから予防も怠りません。が、敵視して憎む対象ではないというか。

医師の帯津良一先生のこちらの意見を読んで、そろそろこういう風に考える時代になってもいいんじゃないかと思った次第。↓

dot.asahi.com

 

共存のしかたを模索したい。

そして、私達が今たたかうべき相手がいるとしたら、それは、この騒ぎにかこつけて暴走する政治に対してではないでしょうか。

 

ちなみに、パトリシア・ライトソンは『星に叫ぶ岩ナルガン』もおすすめ。河合隼雄さんもおすすめしてました。↓

 

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『星に叫ぶ岩ナルガン』(1982年)パトリシア・ライトソン作 猪熊葉子訳 評論社

 

また、舞台はイギリスになりますが、大地の精霊との付き合い方という共通点で、こちらの『妖精ディックのたたかい』も大好き!作者のブリッグスは民俗学と妖精学の専門家。おすすめです↓

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『妖精ディックのたたかい』(1987年)キャサリン・M・ブリッグス作 山内玲子訳 岩波書店

 

精霊(自然)との共存は簡単ではないし、疲れるかもしれない。でも、人間中心の人間だけの世界は、もっと疲れると思うのです。

 

そんなとき、ときどきこういう物語に触れるだけでも、自分の内側が変わってくるような気がしています。

 

【今日の一冊からもらった問い】

自然と共生するためにどんなことができる ?共生のために どんなことをしない?