Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

丁寧で優しい言葉に包まれたいときに

f:id:matushino:20200410160511j:plain

『ゆっくりおやすみ、樹の下で』(2018年)高橋源一郎作 朝日新聞出版

今日の一冊は、なんだか優しい言葉、丁寧な言葉に囲まれたいなというときにおススメの一冊です。

 

高橋源一郎さんが、初めて手掛けた児童文学で、ご本人があとがきで述べているように、この作品ほど長く時間をかけて構想を練り、資料にあたり、細部を考えた作品はいままでなかったそうです。子どもたちこそ、もっとも手ごわい読者だから。

 

そうそう、そうなんです!児童文学ってコワイんですよ~。ごまかしきかないから。

ちなみに、ごまかしがきいている子どもだましのものは、私の中では「児童文学」ではなく「児童書」と呼んでいます。

 

《『ゆっくりおやすみ、樹の下で』あらすじ》

小学5年生のミレイちゃんは、夏休み初めて両親と離れて、鎌倉の「さるすべりの館」に住むバーバのうちで過ごすことに。止まっていたはずの館の時計が動いた時、不思議なことが起こります。あの人たちは誰?赤い部屋の謎は?大バーバの最後の謎は?ミレイちゃんとクマのぬいぐるみのビーちゃんの不思議なひと夏の冒険物語。

 

このミレイちゃんが、まあ優しくていい子なんです。うちも一応鎌倉市内に住んでいるのですが(漁師エリアですが笑)、ん?周りにこんな純粋な子いないなあ(笑)。そういう意味では、ミレイちゃんはちょっとリアリティはないかもしれません。

 

でもね、周りの空気がピリピリしていると、飛び交う言葉にもトゲがありがちですよね。ピリピリしがちな今だからこそ、優しい言葉に囲まれると、なんだかホッとするんです。丁寧な言葉にも触れたい。

 

こちらは「朝日小学生新聞」に連載されていたものなので、一章一章が約2ページと短いです(だから目次が90もある!)。このいい子すぎるミレイちゃんにどこまで今の子たちが感情移入できるかは分かりませんが、本が苦手な子でも読めそうです。

 

物語の筋立てとしては、フィリッパ・ピアスの名作『トムは真夜中の庭で』(←大好き!)や『思い出のマーニー』(←こちらも大好き!)と同じタイムファンタジー。そこに、静かながらも高橋源一郎さんの反戦への思いや、過ぎ去った愛おしい日々が詰め込まれている。残したかったあの頃の物語。

 

最後のほうで、パラレルワールドのことにもさらっと触れられていたり、傷ついた世界を修復してくれる可能性があると知れるのがいいなあ。希望のある物語になっています。

ピリピリしているときにどうぞ。