Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

在宅しながら旅気分

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『アリババの猫が聞いている』(2020年)新藤悦子作 ポプラ社

はい、みなさま、おうち時間を楽しみましょう!

今日の一冊は楽しくて心があったかくなれる一冊ですよ~。そして、モノとの向き合い方が変わるかもしれない一冊。

 

ニュースを見ると気が滅入るかもしれないけれど、ライフラインが止まっているわけじゃない。今は色んなことを、じっくり見直すいい機会だなあ、って思っています。

 

疑問を感じていたくせに、忙しさを理由に見ないようにしてたことのもろもろ。

 

経済最優先の現代社会とそれがもたらしたもの、働き方、“こうあるべき”が先にあって、そこに向かっていく教育、自分自身のあり方etc.etc. 

 

早く終息してほしいのはもちろんなのですが、でも、果たして今までと同じ状態に戻りたいのか。これを機に私自身が変わらないと意味がないのではないか。そんなことを思う日々です。

 

さて、行動が制限されはじめた今、こんなときこそ想像力の出番です!

想像力を駆使すれば、私たちはどこへでも行けちゃいますもんね。

というわけで、前置きが長くなりましたが、今日の一冊はおうちにいながら旅気分にさせてくれる物語。

 

難しい言葉は使われていなくて、小学校中学年から読めそうですが、大人が読んでも異文化に触れるワクワク感がある物語なんです。

 

《『アリババの猫がきいている』あらすじ》

 

東京で一人でくらすイラン出身の言語学者アリババが飼い始めたペルシャ猫の子猫シャイフは、イランのバザールで福を招くと言われる長老族の猫で、人の言葉を解する猫だった。
あるとき、アリババは海外出張のため、友人で民芸品店を営む男性、石塚さんにシャイフを1週間あずけることに……。そして、初めて石塚さんの部屋にとまった夜、シャイフは民芸品たちと話ができることに気づく。
アフガニスタン遊牧民の花嫁を乗せるラクダを飾るひも(ひも姉さん)、アフガニスタンの古都ヘラートで作られている吹きガラス(青いグラスくん)、イランのハチ飼いが使っていたミツバチの巣箱のふた(タイルばあさん)、ペルーのアマゾンの学校の先生が作った動物の人形たち(アマゾンのやんちゃたち)――遠い国からやってきた民芸品たちは、毎晩、順番に驚くべき身の上話を語っていく。
そして店にはイラン出身の少女ナグメや、日系ペルー人の少年タケルがやってきて……。

民芸品たちの波乱万丈の物語をきいた子猫シャイフが、彼らにつながる遠い国の人々を思い、民芸品たちに託された願いをかなえようとする姿が胸を打つ、異色のファンタジー!(出版社HPより)

 

 

■人にもモノにも背景にストーリーあり

物語の舞台は民芸品店。色んな国の雑貨があるのですが、その一つ一つの背後にあるストーリーがとっても素敵なんです。そして、何がいいって、それらが一般の人たちの使うものだった、というところ。だって、王族とかのものだったら博物館行きでしょう?飾られるためにあるんじゃない、使ってもらってこそ!というところが、すごくいいんですよねえ。

 

日本にも“つくも神”ってモノに宿る精霊がいますが、そういうのってあるんだろうなあって思います。だって、作り手の思いが乗っかったら、モノに命が宿るのも全然不思議じゃない。だから、夜中に民芸品たちがおしゃべりを始めるのが、とっても自然なことに思えるんです。

 

■物語を聞くことは誰かの心に近づくこと

さて、この物語の魅力の一つは、異文化が一気に身近になるところ。

花嫁を乗せるラクダに飾るひもって?ミツバチの巣箱のフタにタイル使うの???

それだけでも、もうワクワクしてきませんか?異文化への誘い。

 

新藤さんが紡ぐ物語がいいなあと思うのは、平易な文章で書いてくれているのに薄っぺらくないところ。ただただ楽しいワクワクじゃないんですね。悲しい歴史、失われゆく文化についてもちゃんと触れられているんです。さすがノンフィクション作家ご出身だなあ。

 

例えば、難民問題。あとがきにも書かれていますが、日本で難民のニュースを見てもそれは単に情報であって、正直遠い国の出来事ですよね。教科書しかり。でもね、新藤さんは続けます。「難民」とひとくくりにされる人たち、ひとりひとりに、物語があることを想像してみてください、って。

 

ラクダに飾る祝いのひもを使うことのできず、難民となった遊牧民の娘ヌルビビを思うとき、「難民」はヌルビビの物語になり、それは私たちの友達の物語となる。

その人たちの使っていたモノたちは、彼らの文化を物語を語ってくれます。

 

物語をきくことは、想像すること。想像することは、だれかの心に近づくことなのです。(P220 あとがきより)

 

 

本当に!そして、だれかの心に近づいたとき、私たちは他では得られない、満たされた気持ちになるのではないでしょうか。

 

■物語を通じてでしか知りえない

ところで以前、聞きに行った海外児童文学翻訳者・原田勝さんの講演会の中で印象的だったお話があるんです。

jidobungaku.hatenablog.com

それは、原田さんの子ども時代よりも、今の子どもたちのほうが、インターネットもあって世界が身近なハズ......なのに、外国のこと色々と知らない、ということ。

 

それ、自分の子どもたち見てても思うんですよねえ。情報がなかった時代の私たちのほうが、知らない外のものへの憧れがあって、物語からあれやこれや想像して異文化の中のモノたちと仲が良かった気がするんです。

 

物語を通してでないと、本当の意味で物事を知ることはできないんだなあ、としみじみと思いました。物語の力、今こそ必要な時なのではないでしょうか。

 

おっと、言い忘れるところでした!

もう一つ、この物語というか新藤さんの物語に共通する魅力……それは、美味しそうな食べ物が出てくるところ!毎回書いてる気もしますが、ここすごく大事なところ(笑)。〈ひらけごま〉のピラフの美味しそうなこと。作ってみたくなります。

 

美味しい異国料理も旅気分にさせてくれますよね♪

 

※ 新藤さんの他の物語はこちら↓

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