なんて心に染み入る光景なのだろう!そう、思わせてくれる物語です。
市川朔久子さんの描く物語はいつも優しい。淡々と進み、特に盛り上がりもないけれど、心の中に何かキレイなものが残る……そういうミニシアター系の映画を観たかのような気分になります。
『紙コップのオリオン』あらすじ
中学2年生の橘論里は、実母と継父、妹の有里と暮らしている。ある日、学校から帰ると、母親が書き置きを残していなくなっていた。一方、学校では、轟元気と河上大和、そして水原白とともに、創立20周年記念行事の実行委員をやることに。記念行事はキャンドルナイト。校庭に描くことになった冬の星座に思いをはせながら、論里は自分と、自分をとりまく人たちのことを考えはじめる。『よるの美容院』で講談社児童文学新人賞受賞待望の第2作!(BOOKデータベースより転載)
今はKindle版しか出てないんですね。まあ、地味といえば地味な物語だからそうなっちゃうのかなあ。
私は好きです、こういう小さな気持ちの揺らぎを丁寧にすくい取るような物語。
母親が突然出て行っちゃうなんて、大事件といえば大事件なのに、割りと淡々と描かれている。もちろん主人公の男の子は多感な時期だし、不満は出るけれど、それでも大騒ぎはしない。
会話文が多い&難しい表現がなく、普通の中学生の日常を描いていることもあるので、本が苦手な子でも読めそう。
ここに出てくるお父さんは本当に寛容で、THE☆いい人代表のような人なのだけれど、子持ち女性と再婚したこともあってか、実のお姉さんとはしばらく音信不通だったのです。それが、ここへきて父親の具合が悪いこともあって急に登場する。
最初はとまどっていたお父さんでしたが、子どもたちが揃って熱を出してしまったときには、その姉を頼るのです。そのとき申し訳ないと思う論里に対して、迷惑といえば迷惑、とキッパリというお姉さんがカッコイイ。そして、「でもね、……」とそれに続く言葉。もうね、この一言だけでも息苦しさを感じている子どもたちに聞かせてあげたい。この一言に出会うためだけでもこの本を読んでほしいかな。それは、こんな言葉でした↓
「迷惑をかけずに存在できるものなんか、どこにもないのよ」
「素直に『助けて』って言える人間のほうが、ほんとうは強いの」(P.193)
なーんて、言ってますが、ついつい私も言ってしまうんです。
「人に迷惑だけはかけるな」
って。うーん、昨日もうちの夫がバスケをサボっていた次男に言ってたなあ。
あまりにも開き直って悪びれないもので。
でも、子どもたちは、この言葉に追い詰められ、結果迷惑かけちゃいけない、失敗しちゃいけないと身動きが取れなくなっていくんですよね……。そして、今度はなぜ挑戦しない、なぜ逃げるとか言われちゃう。
インドでは「人は迷惑をかける生き物なのだから他人のことも許してあげて」と教えているということを思い出しました。
最後に校庭に現われた星座のキャンドルたちは圧巻で、ただただ見惚れてしまいました。確実に、私もその場にいて胸がいっぱいになりました。
この風景が見させてくれてありがとう!ってしみじみ思えた物語でした。
市川朔久子さんの物語はどれもおすすめです。