今日の一冊は、生活保護が描かれていたり、子どもの貧困と向き合ったコチラの本。
長男の学校の先生からの夏休み(←もうすぐ冬休みですね💦)のおススメ本にもあがっていました。
長男は私立に行っているのですが、私立の生徒たちがこれを読んでどう思ったのか聞いてみたいなあ。
『むこう岸』あらすじ
貧しさは、あきらめる理由になんてならない。有名進学校の授業についていけず、公立中学に転校した少年。父を事故で亡くし、母と妹と三人、生活保護を受けて暮らす少女。少年は「生活レベルが低い人」と少女に苦手意識を持ち、少女は「恵まれた家で育ってきたくせに」と少年の甘えを許せない。そんな反目する二人が直面する、「貧しさゆえに機会を奪われる」ことの不条理。中三の少女と少年は、いかにして「貧困」に立ち向かうのか。(BOOKデータベースより転載)
第59回日本児童文学者協会賞受賞作品。貧困ジャーナリズム大賞2019特別賞受賞作品。
■大人“が”読むべき本
とっても読みやすい!
知りたいと思ってもなかなか小難しい文章が並んでいて、理解できない生活保護についても、とてもかみ砕いて書かれています。なので、疲れてとても読書なんかしてられない!という大人でもすんなり読めます(←つまり、読んで~)。
優しい言葉で書くほうが、難しい言葉で書くより難しいんですよね。
この物語は児童書なので「大人“も”読みたい」と書きたいところなのですが、あえて「大人“が”読みたい」と書きたい。
だって、これは大人が知るべき実態だもの。子どもたちに君たちが大人になったら何とかしてね、って責任転嫁だもの。
税金を払ってる大人からすると、生活保護に対してはさまざまな複雑な思いがあるかもしれません。働かずにお金もらえて、病院もタダ。朝から晩まで必至で働いてギリギリの生活送ってる人から見れば、何でこの人たちを自分が税金で養ってあげなければならないの!?っていう気持ちになるのも…うん、理解できる。だから余計に複雑。
きれいごとではない現実を色々と考えさせてくれる物語です。
■悩みは状況では比較できない
佐野樹希はダメな親の元、生活保護を受け、妹の面倒もみて暮らしている少女。
山之内和真は難関私立中学に合格したものの、ついていけず、また高校受験でリベンジせよと父親から強く迫られている少年。
一見、和真のほうが恵まれているように見える。経済的には確かにそう。でも、心の窮屈さは???
自分の人生なのに、自分の思うように生きられない......それは、和真も樹希も同じ。
悩みの深さって状況(外的要因)だけではそう比較できない。
「あの子より自分のほうがマシ」
と比較して、自分をなぐさめるのも何か違う。
私自身は中学から私立に行っていたこともあって、周りには経済的には恵まれた家庭の子が多かったのですが、親との関係が良好とは言えない人も少なくなかった。和真のように親の望む人生歩まされてる子って、実際結構いました(ただ、自分もそれを望んでると思い込んでるケースも多かったけど)。
余談ですが、そんな周りの壮絶な悩みを聞くたびに、何の悩みもない自分はおかしいのかな?とか苦労が足りなさ過ぎて、人間として浅いんじゃないかと落ち込む時もありました。途中で開き直りましたけど(笑)。
児童文学に出てくる子どもってすごい子が多くてですね、自分の不運を他人や社会のせいにしたりしない子が多いんです。けれど、樹希はそんなにいい子じゃない。常に周りに苛立ちを覚えてる。親友だった子とも距離を置いてしまう。そこも、すごく現代日本社会の子どもらしくてリアリティがあるなあ、と思いました。
■受け入れる、そこから全ては始まる
さて、そんな苛立ちを覚えていた樹希でしたが、和真と関わることで徐々に変わっていきます。将来を諦め、投げやりだったところに、和真が希望の光を運んでくるのです。
生活保護法 第一章 第二条
『すべての国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる』
この文章を美しいと思った山之内和真。あらゆる不条理に満ちている世の中での希望。
ああ、日本終わってると思うことも多々ありますが、こういう美しい法律が確かにあるんですよね。
この文章を美しいと思える君の心が美しいよ、和真~!!!
そして、昔ケースワーカーをしていた元仲良しの友だちエマの叔父さんは、素直になれない樹希にこう声をかけます。
「あのさ、情けなかろうがなんだろうが、助けが必要なときは必要なんだ。もう、受け入れようよ」
「......(中略)きみの気持ちも少しはわかる。けどさ、嘆いてもせめても、人って決して変わらないんだよね。返す言葉もなくて、ただうずくまってしまう。変われるとしたら、誰かと上手に関わりを持てたときだけ」(P.227)
そう、まず受け入れる。自分の運命を。そこから全ては変わり始めるんですよね。
また、生活保護を利用していることに引け目を感じている樹希に叔父さんは、生活保護の制度を利用することは、いずれは社会全体の利益になるとも伝えるのです。
「ああ、簡単な計算じゃないか。きみが将来、生活保護を受け続けるのと、しっかり勉強して社会に貢献できるようになるのと、どっちがプラスになると思う?
きみは施しを受けているんじゃない。社会から、投資をされているんだよ」(P.229)
そうなの、そうなの、投資なの。“助ける方が上で、助けられる方が下”、じゃないの!
生活保護は大人に関しては確かに余計にダメにしてしまう面もあるかもしれないけれど、子どもが将来への機会をもらうのは権利なんです!!!
ブレイディみかこさんのこちらを思い出しました。↓
とっても良い保育士になれたはずなのに、補助金が途中で打ち切られ、資格を取るまで学ぶことを続けることができなくなってしまった、金の卵たち。若者を育てる機会を奪うのは、長い目で見ると社会にとっても損失なんです。
ちゃんと大人になれたら、2倍にも3倍にもして返してやる。それなら、あたしと社会は、五分五分じゃないか?と気づき、堂々としてても良い気がしてきた樹希。
和真も樹希やその周りの人たちとの出会いを通じて変わり始めます。
何のために勉強するのか。
はじめてこころの底から湧き上がる「知りたい」という気持ち。高得点をとるために学ぶんじゃない。自分の知識や思考を、もっと大きな場所、今を生きる人々の中に向けて放っていく!!!
なんて清々しいのでしょう。
困難にある人々と関わると、恵まれた環境にいる自分に罪悪感を覚えてしまいがち。
けどね、そんな必要はないんですよね。恵まれた環境にいるのなら、それを活かして、学んでどう世の中に役立てていくか。どう世の中をよくしていくのか。みな自分の今ある状況を受け入れて、そこから進んでいく。
中学生の子どもたちがこんなに真剣に考えているのだもの。
さあ、私たち大人は一体どうしていこう。
向き合っていきたいと思います。