Pocket Garden ~今日の一冊~

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コンプレックスからの卒業!

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イングリッシュローズの庭で』(1998年)ミッシェル・マゴリアン作 小山尚子訳 徳間書店

 

今年は残暑が厳しくて、このまま秋は来ないのかしらん?なんて思ったけれど、やっぱり大好きな秋はちゃあんと来てくれて。

そんな秋の夜長に一気読みしたい物語を今日はご紹介!

 

 

ひと夏の物語なんですけどね、結構分厚いのですよ。夏の物語だけれど、秋の夜長に読みたくなる(笑)。

白鳥にはなれない、自分にコンプレックスのあった少女が悩み、自分らしい生き方を見つけて「自由なガチョウでいる方が好きなの」とありのままの自分を受け入れ好きになる話。

 

イングリッシュローズの庭で』あらすじ

戦禍のロンドンから、海辺のコテージ「千鳥荘」に疎開してきた、上流階級の姉妹ローズとダイアナ。この千鳥荘には「狂人ヒルダ」と呼ばれる女性が住んでいたせいで、疎開者が居着いたためしがないという。妹のローズは偶然から、ヒルダの持ち物がしまいこまれた小部屋に入るカギを見つけ、ヒルダの日記を読み始めた。そこには、戦争と家族の犠牲になった、一人の聡明な女性の生涯が克明に記されていたのだった。そして、ヒルダの秘密が、ローズの人生にも大きくかかわり始め…。世間からさげすまれている未婚の妊婦ドット、書店の主人アレク、近所に住む親切なクラレンス夫人など、さまざまな人々との交流を通して、淑女のお手本のような姉ダイアナも、自由な精神の持ち主ローズも、真実の愛、そして、人生の目的を見いだし、大きく成長していく。英国の海辺の町を舞台に、少女たちの愛と成長を軽快な筆致で描く、青春ドラマ。(BOOKデータベースより転載)

 

たまにね、こういう物語ならではのドラマチックな展開に浸りたくなるのです。面白くてページをめくる手が止まらなくなる。

 

1940年代の第二次世界大戦さなかですが、疎開先なので暮らしもゆったりしているし、戦争の影響はそれほどは感じられません。でも、息子が戦地に赴いてる母やその恋人たちはハラハラしているし、生き急いでることで思春期の成長も早いんですよね。

 

主人公のローズ(17歳途中から18歳)は、大人の入り口に立っている少女。小説家志望で、自分のやりたいことがハッキリしていて、とても自分というものを持っている少女に見えます。

 

でも、彼女にはコンプレックスがあるんですよね。美人の姉に対してお世辞にもキレイとはいえない自分、勉強が意外にもできなくて(できそうなのに)試験に何度も落ちる、堅苦しい寄宿舎と合わず居場所が見つからない。そんな自分のことを好きになってくれる異性なんて現れるのだろうかという不安。こういうコンプレックスは時代を超えて共感する人多いのではないでしょうか。

 

また、きちんとした性教育がされていなかったこの時代、どうしても思春期の子たちの興味はそこへいきます。

自分に自信がないがゆえに、相手から求められることが嬉しくて、それを恋愛と勘違いしてしまう。あるある。何かが違うと思いながらも、戦争でいつ相手が死ぬかワカラナイという特殊な状況もあいまって、ローズはデリーに初体験を捧げてしまいます。そりゃこの流れ、そうなるよね、そうするしかなかったよね。ローズを責められない。でも、ローズの中では、想像していたのと全然違う!違和感がふくれあがっていくのです。人には言えないけれど、こういう思い抱いてる子って実は多い気がします。

 

そして、まあ、デリーのカッコ悪いこと!立場があやうくなったらコソコソ逃げてなんと男らしくない。が、それがリアリティがあるなあ、って。女子たち、思春期男子には気を付けようね。

 

さて、この物語の時代は、婚前交渉なんてトンデモナイ!という時代。なので、未婚の母になった娘たちは白い目で見られています。でも、ヒルダの時代(第一次世界大戦時)なんてもっとひどい。狂ってないのに、家族の恥ということで精神病棟入れちゃうんですからね。ありえない!実は聡明だったヒルダの物語もまた胸を打ちます。

 

そんな白い目で見られている未婚の妊婦ドットのことを、最初ローズは受け入れられません。私も中高生のころは風紀委員長ばりに(笑)順序大事とか思っていたからローズの気持ちも分かるなあ。

今は時代が変わって、未婚で妊娠しようが周りは驚かなくなりましたが、当の本人は相手に受け入れられるか確証を得るまでは不安なのは現代でも変わらないですしね。10代ならば特に。

 

意外だったのは自立心に富んだローズよりも、おとなしそうだった姉のダイアナのほうが先にドットの魅力に気づき、世間の目なんて気にしないで友情を育んだところ。姉があまりにもドットに入れこむから、ローズも徐々に心を柔らかくしていくのです。

拒否→敬遠→徐々に受け入れ→友情、という流れがとても丁寧に描かれていていい!

最終的にはお医者さんの到着が間に合わず、ローズはお産の手伝いまでします。その場面は結構壮絶なのですが、こういう場面を伝えていくのってとっても大事。出産って病気じゃないけど、命がけ。

 

そんな命がけの場面を目にして、ローズはもう学校には戻らないと決めるのです。

 

 

「……ドットが赤ちゃんを産んだとき、立ち会ったせいなの。もう学生にはもどれない。ジョージが生まれてくるところを見たのよ。最高にすばらしい経験だったわ。それこそ一人の人間の人生の出発点にいあわせたのよ。わたし、人間にとって何が一番大切かって、忘れてた。こうやって、今生きていることなんだわ!」(P.343 )

 

 今生きてる。だから、自分がちゃあんと生きてるって実感できる生き方をしよう!

 

心の葛藤だけでなく、身体の関係も結構赤裸々に描かれているので、渡す年齢を選ぶかも?

でも、現代っこたちは、ただただ過激な表現だけのものを手に取りがちなので、こういう心の迷いもきちんと描いた物語はいいな、って思います。

 

出てくる登場人物たちや書店もとにかく魅力的で、読み終える頃には各登場人物のアナザーストーリーも読んでみたくなります。

秋の夜長にどうぞ。