Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

どうする!?世界を変える科学の発明

f:id:matushino:20190731071051j:plain

『14番目の金魚』(2015年)ジェニファー・L・作 横山和江訳 講談社

 

自由研究に頭を悩ませているお子さんも多そうな夏休み、今日の一冊は科学への興味の入り口になりそうなコチラ。

ニューヨークタイムズ・ベストセラーBOOK、Amazon.comベストブック・オブ・ザ・イヤー2014(9歳~12歳)だそうです。

 

長崎訓子さんのポップなイラストがぴったりの軽快な文体によるドタバタ劇。でも、ちゃあんと考えさせるところは考えさせます。

 

《『14番目の金魚あらすじ』》

 11歳のエリーの元に、ある日ママが風変りな少年を連れてきた。横柄な態度、時代遅れのファッション。なんとそれは、不老不死の薬を開発し、自らを実験台としたエリーのおじいちゃんだった!13歳に若返ったおじいちゃんと一緒に学校に通い、科学の魅力に開眼していくエリー。でも、みんなが永遠の命を手に入れたら一体どうなっちゃうの?科学への憧れを持ちつつ、「生命」のサイクルについて、エリーは考え始める。

 

 

■ 科学への興味の入り口に!

 

エリーはいわゆる洞察力が鋭いとか、熟考するだとか繊細なタイプではないんです。でも、自分の中に湧き起る小さな疑問から目をそらさない。等身大の自分で、ちゃんと物事を見極めようとして、自分の言葉で考える(だから、変に小難しくないところが良い!)。

 

おじいちゃんの変に子どもっぽくて、頑固なところもコミカルで面白いです。

軽い感じで進んでいくので、本が苦手な子でもいけそうですし、私のように理系アレルギーの人でも科学の魅力を知れる気がします。いや、やっぱり興味は正直湧かないんだけれど(笑)、でも、科学の魅力に憑りつかれる人の気持ちはこれを読むと分かります。←ココが読書のすごいところ!自分の世界にはないものも受け入れられるから。

 

 

■ 科学の恩恵とその後を考えさせてくれる

 

ところで、日本人なら“ん?”と引っかかるところが出てきます。

それが、エリーが原爆は戦争を終わらせた素晴らしい科学の発明だと思っているところ。

アメリカでは、いまだそう思ってる人が多い事実を知ることは衝撃でした。ちょうど先月話題になった、アメリワシントン州の高校のキノコ雲のロゴに誇りを持っている町に疑問を呈した日本人留学生の話が話題になっていたのを思い出しました。ぜひ、こちらもご一読を↓

 

newswebeasy.github.io

 

ものすごい引っかかりを覚えたまま読み進めて行くと、大丈夫、ほっとします。

 

エリーの好きな化学の先生がスーパーの前で署名活動をしているところにエリーは遭遇するのです。先生は核兵器反対の団体で活動しているのですが、そのパンフレットには

 

ヒロシマ。戦争のはじまり。」

 

と書かれていたのです。エリーは混乱します。あれ?原子爆弾は戦争を終わらせたのよね?

それに対する先生の答えが押しつけがましくなくていいなあと思いました。

 

「そうかな?原子爆弾が、より大きな戦争の引き金になったとは思わないかい?次の原爆がいつ落とされるかわからない状態になったんだよ。ひとたび魔物を外に出したら、びんのなかにはもどせない。」(P.153-155)

 

質問することにより、先生はちゃんとエリーに自分で考える余地を残しておいてくれている。余地があるから、エリーはそこから自分なりに調べ始めるのです。原爆が落とされたその後について。

 

■ 「生命のサイクル」から見える希望

 

原爆のことがきっかけで、世界を変える発明の科学は、世界をどう変えるのか。良くするのかダメにするのか、エリーは考え始めます。そして、不老不死の薬を発明して喜んでいるおじいちゃんに疑問を呈するのです。

 

大人になるのって、人生って、そんなにひどいものなの?

 

エリーの心からの叫びは胸を打ちます。ああ、私たち大人は子どもたちが大人になりたいと思うような大人として生きているだろうか。

 

エリーの叫びでおじいちゃんは目を覚まします。「生命のサイクル」に気づくのです。

永遠に続くのが素晴らしいのではなくて、終わりがあるから次につながる。そこにあるのは、絶望ではなく、希望なんですよねえ。

 

だから、児童文学ってやっぱり好きです。ちゃんと希望を見せてくれるから。

 

やっぱり気づかせてくれるのは「愛」なんだなあ、っていうことを、クサくくならずに、軽快に感じさせてくれる物語でした。