Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

奇想天外な旅本7選

旅が好き!

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久々に某紙面での選書をしたので、こちらでもご紹介。

今回は、“奇想天外な旅を追体験しよう!”をテーマに集めてみました。旅割なども出てきて、また旅に出かける人が増えてきてはいますが、“奇想天外な旅”となるとまた別。だから、Let’s 追体験

 

こちらのブログでも、以前それぞれの本はご紹介したことはあるのですが、まとめてみた編、です。

 

 

深夜特急1-香港・マカオ』(2020年) 沢木幸太郎著 新潮文庫

まずは、有名すぎるコチラ!

詳細な計画は立てずに、バスなどの陸路だけで、一人個人旅行でユーラシア大陸を旅した紀行小説で、文庫版は全6冊。1986年に発行されて以来、バックパッカーたちの間でバイブル的な存在となった1冊で、絶大な影響力を持ちましたよね。まだネットやスマホがなかった時代の旅は、スリル満点で一気読み間違いなし!朝まで読みふけったなあ。ネットやスマホを使わないというだけで、今の子から見たら奇想天外な旅になっちゃうんでしょう。当時も別の意味で、衝撃的だったけれど。年末年始に一気読みするにはぴったりのシリーズです。

 

『十五の夏』上下巻(2020年)佐藤優幻冬舎文庫 

元外務省主任分析官・佐藤優氏の十五歳の夏の思い出を書いた旅日記。ソ連・東欧を一人旅し、様々な人と出会った40日間の旅の記録。当時まだ冷戦下の社会主義国へ、十五歳で一人旅したことにまず驚きです!このブログでも、以前ものすごくオススメしたけれど、何度でもオススメしちゃいます(笑)。佐藤少年の目を通して見た馴染みのない国々は、もうとっても興味深くて。上下巻とも分厚くて、その分厚さにひるみそうになるのですが、読み進めると逆にその分厚さが嬉しくなるほど面白いんです!ぜひ。

 

『お嬢さん放浪記』(2018年)犬養道子著 角川文庫 

犬養毅元首相の孫である著者。まだ渡航すら難しい時代(1948年)に米国に留学し、サナトリウムで療養しながら起業して欧州へ渡る旅文学。とにかくスケールが大きく、家柄的にも一般人とは違う。そんな世間知らずのお嬢さんの行動力、生き方に我々は感嘆し、いま読んでも色褪せない面白さに魅了されます。刺激をもらえるとは、まさにこういう一冊。

 

『森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて』(2017年)星野道夫写真・文 文春文庫

ワタリガラス神話に魅せられた写真家・星野道夫が、神話に生きた時代の人たちと同じ目線で描く魂の旅の記録。たくさんの美しい写真とともに星野道夫の静謐であたたかな文章が、我々を神話の世界へと誘います。星野道夫さんの書いたものはどれも大好きなんですけど、個人的には神話の世界へと連れて行ってくれるこちらが特に好き。現代人に不足しているのは、こういう世界観だったのかと気付かされ、静かに感動するんです。

 

『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』(2022年)大竹英洋著 文春文庫

大学4年時に見たオオカミの夢に導かれるように、憧れの写真家に会うため、カヌーで旅に出た冒険の記録。星野道夫氏の後継者ともいえる大竹氏。遠回りをしながら、自分の力で、憧れの人に会いに行く。そのまっすぐな気持ちに何度も心が洗われ、若い時に出合いたかった!と思った瑞々しい一冊です。こちらのブログでも、以前猛烈にオススメしましたが、いまでもその気持ちは変わりません(笑)。

 

オーパオーパ‼!モンゴル・中国篇 スリランカ篇』(1991年)  開高健集英社文庫 

魚を求め、アマゾン、アラスカ、カリフォルニア・カナダ、コスタリカを経て、モンゴル・中国、スリランカへ。シリーズ4巻の完結編。釣り好きにはたまらないのはもちろんのこと、釣りに全く興味のない人が読んでも、冒険心をかき立てられる傑作紀行文なんです(ええ、私自身は釣りには全く興味ありません)。個人ではなかなか巡れない秘境が楽しめるんですよねえ。これを読んで、大学時代の私はモンゴルへ行ったくらいです!

 

『世界の市場 おいしい!たのしい!24のまちでお買いもの』(2022年)マリヤ・バーハレワ著 アンナ・デスニツカヤ絵 岡根谷実里訳 河出書房新社 

最後にご紹介するのは、ちょっといま長い文章読めない!っていう方向きの絵本。世界12か国、24都市の市場を紹介してあるもので、なんと各国レシピ付き!眺めるだけでもワクワクする活気に満ちた市場たち。イスラエル、タイ、チリ、ヨーロッパ各国、ロシア、モロッコなどなど。家庭料理を通じ、人々の暮らしや地域の特性が見えてくる楽しい絵本です。市場好きだけど、スリが怖くてなかなか行けないとか、実際にはなかなか24の町もまわれないですよね。それが、できちゃうのがこの絵本です。ぜひ。

書店員って実はこんなにも熱い

『店長がバカすぎて』(2021年)早見和真著 ハルキ文庫

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今日の一冊は、中高生くらいから楽しめそうなエンタメ小説。

 

ただね、児童文学に慣れ親しんでいると、久々に読んだ大人向けエンタメ小説は、ちょっと乱暴にすら感じてしまいました。うーん、主人公のお言葉遣いが悪くてビックリ。

 

そんなわけで、最初のほうが読むのがきつくてですね、もう読むのやめようかと思ったのですが、途中から面白くなってきたのは、書店&出版業界あるあるが書かれていたから。上司のこの救いようのないアホな感じも、何回も経験してきたなあ、と懐かしくなったりもして。

 

決して、児童文学のほうが素晴らしくて、大人の文学がよくないと言いたいわけじゃないんです(そう聞こえちゃうかもだけど)。でも、大人向け小説を読むと、改めてやっぱり児童文学って、丁寧だなあ、誠実だなあって実感するんですよね。言葉が平易な分、ごまかしが効かないというか。

 

ストーリーとしては面白いです。書店員って実はこんなにも熱い思いを抱えているのね!って驚くかもしれません。また、デビュー作はよいのにだんだんとこなれてしまって本当に本人は納得しているのかな、というような小説を出し続ける作家たちなども、ああ、いるよね、って。

 

確かに、働いていると、どうして世の中こんなにバカすぎる人ばっかりなんだろう、って思うときがいっぱいあるのも事実。でも、次から次へとそういうバカすぎる人たちを章立てて提示されれると、疲れてしまった。面白いけど、その面白さはエンタメ的であって、心の糧になるようなものじゃないのかもしれない。

 

なんて、ついつい児童文学と比較してしまって、反省なのですが、色んなタイプの本があるのはいいですよね。誠実なのばかりでも、疲れるときもあるかもしれないし。そんなときは、今回の1冊のような軽めのエンタメもオススメ。

 

児童文学が、じっくり味わいたい丁寧に愛情込めて作られた手作り菓子だとしたら、エンタメ小説は、友だちと一緒に話題にするには楽しいスナック菓子的なものかも。

書店員たちの熱い思いを知れるので、そういう意味でもよかったら。

 

 

なんてことのない場面が忘れられない物語

『わたしのほんとの友だち』(2002年)エルス・ペルフロム作 野坂悦子訳 岩崎書店

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スリナム共和国ってご存知ですか?

お恥ずかしながら、私は聞いたこともない国でした。スリナムは1975年にオランダの植民地から独立するのですが、この物語はその直前くらいのお話。かつては、オランダ領ギアナと呼ばれていたそう。ん!ギアナなら聞いたことある。ギアナ高地ギアナですね。

 

今日の一冊は、そんなスリナムからオランダに移民してきた一家と、母親が入院するため夏休みをおばの家で過ごすことになった女の子の友情物語。終盤、スリナム一家の子リカルドに盗みの疑いがかけられて、ハラハラもしますが、心が通じ合うって、いいな、と最後はじーんとする物語です。

 

最初読み始めたときはね、正直ちょっとだけちょっとだけですけどね、このまま読み続けるのはキツイかもなー、と実は思ったんです。

というのも、主人公のズワーンチェには空想のお友だちがいて、このまま空想のお友だちとの会話が続くのを読むには、私は大人になりすぎてしまっていたから。

 

が、途中からズワーンチェがスリナムから移住してきた一家と仲良くし始めるあたりから興味がわいてきました!高級住宅街と隣り合わせにある彼らの住宅は、高級住宅地の住民からすると警戒すべき対象。ズワーンチェも関わらないように、とおばから言い渡されますが、子どもは直感で生きてますからね!にぎやかな大家族であるスリナムの一家のおうちに興味津々。

 

大人の倫理観からするとね、その一家のリカルドという子は確かに軽い犯罪は犯しているんです。Tシャツ盗むのは、盗みには違いないんですから。でも、そうした行為をこの作者は大人の視点で裁いていないんですね。とたんに、この作者への信頼度が増しました!(←何目線?)

作者の方、オランダではとても有名な方で、『第八森の子どもたち』などを書かれています。気になりつつ未読なので、読んでみたい。

 

ところで、この物語の中で、とても印象的な場面があって。それは、野外の音楽堂で一人きりでいたリカルドにズワーンチェが出くわす場面。雨の中に並んで立って、雨粒を開いた口に受け止めて、今度は屋根のある軒下(かわいた場所)から雨を見る......そういう場面なんですけど、二人の心が通じ合う子の場面がまるで映画のように自分の中に迫ってきたんです。

 

なんてことのない場面といえば、なんてことのない場面。でも、とても感動してしまって。そうしたら、あとがき読んだら訳者の野坂悦子さんも同じ場面のこと書かれていて。“自分の思い出の一部になってしまったようで、読むたびに少し切なくなる”、って書かれていて、それーっ!私が言いたかったの、それ!って思いました。そう、自分の思い出の一部になってしまったんです。うまく説明できないんですけど、この場面に遭遇できただけでも、読めてよかったな、って思いました。

 

ラストのほうは、盗みの疑いをかけられたリカルドを救えるのかハラハラしますが、友情物語でもあり、ズワーンチェという一人の空想にこもりがちな女の子の成長物語としても、いい。よかったら。

自由に生きてる人たちに出会う

『少年のはるかな海』1996年 ヘニング・マンケル作 菱木晃子訳 ささめやゆき絵 偕成社

今日の一冊は、冬に読みたいコチラ!

多感な思春期の少年の内面を描いたスウェーデンの物語で、スウェーデンのニルス・ホルゲション賞、ドイツ児童文学賞受賞作。

 

ああ、このちょっと日本人とは違う北欧独特の空気感好きだなあ。訳が菱木晃子さんだったので、きっと間違いないと思ったら、やっぱり間違いなかった。少年の身に起こることはドラマチックなんですけど、描き方は終始淡々としていて、ぐるんぐるん感情が揺さぶられるというよりは、静かに心動かされる感じ。だからね、さらっと読めてしまうといえば読めてしまいます。でも、これは冬にじっくりと読みたいタイプの物語。

 

色んなテーマが折り重なっていて、どこにぐっとくるかは読む人によって違うんだろうなあ。少年から大人への階段をのぼりはじめ、空想から卒業しなくてはと焦る心理(←個人的に分かるっ。身に覚えあり)。片親に育てられ、親が再婚するかもしれない、自分は必要とされてないかもという不安。学校でのイジメ。仲間であると見せかけて、恐怖を与えることで、相手を自分の思い通りにあやつろうとする新しい友人などなど。

 

大人の文学にして、もっと感情的に描けば読者は増えるのかもしれない。でも、これを児童文学でやってしまうところがすごいなあ、って。

 

物語のきっかけ、始まりは、ある夜窓の外を星に向かって走っていく(ように見えた)犬。その犬を追いかけるようにして、ヨエルの夜の徘徊が始まります。

 

昼とは違う顔の夜の町。不思議な出会い。これがねえ、なんとも言えずいいんです。いや、不穏な感じなんですけど、なんていうんだろう。同じ場所のはずなのに違う景色を見ること、秘密があることで、成長するっていえばいいのかなあ。その秘密を見させてもらえてる気がして。

 

最初は仲間だと思ったトゥーレからひどいことをさせられそうになったり、父親の新恋人の件で心が押しつぶされそうになるヨエルでしたが、そんな彼を救ってくれたのは、二人の大人たちでした。その二人は、町の人たちから奇異な目で見られている、いわゆるアウトサイダーたち。この二人がとっても魅力的なんです。

 

一人目は、トウヒの林の中に住むレンガ職人シモン。シモンはおそらく精神病棟に入れられていたと思われる人物で、自分でもまだ変かもというくらい、ちょっと変わっています。が、とっても純粋。片方の足にはゴム長、もう片方には鋲のついたブーツを履いてね、両足に同じ靴を履かなきゃいけないと誰が決めたんだ?って問いかけるんです。彼が、ロープをぴんと張って、雪の上に置いてきれいだろう?と聞く場面は、正直どこがきれいなのか私には分からなかったのですが、彼はこういうんです。

 

なにかきれいなことをすると、さみしさがうすらぐんだ。おれの特効薬だ。おれはずっと病気だった。きれいなことをするようになってはじめて、病気がなおったんだ(P.143)

 

その“きれいなこと”は、彼にとってきれいなことで、他人からは理解されないことかもしれない(げんに私はロープのところよく分からなかった)。でも、自分軸で生き始めた彼は自分を取り戻したんですね。他人の決めたことでなく、自分の思いに従い始めたら、苦しさから解放された。ああ、シモンは“あたしに会えた”んだね(藤井風の新曲『grace』参照)。だから、自由になったんだね。

 

www.youtube.com

 

そんなシモンは、ある日苦しみでいっぱいのヨエルを見て、四つの風の湖というところに連れて行ってくれます。そして、四つの風(悲しみ、怒り、喜び、あたたかくてつめたい風)の話をするんです。四つの風の話はおとぎ話かもしれないけれど、たとえそうでも自分にとっては救いになったから、ヨエルにとっても救いになるといいな、って。

 

どう生きたいかは自分で選べる。そっとヨエルを一人にしてくれた場面がぐっときました。人との出会いが人を変えてくれるけれど、乗り越えるときは自分ひとりと向き合わなくてはいけないんですよね。大事な大事な一人の時間。

 

二人目は、顔の真ん中に黒い大きな穴が開いているイエルトルド。そんな顔で出歩くなと人は思うかもしれないけれど、彼女は平気で出歩く。いまの自分にできることで精一杯楽しんで生きる。

 

でもね、そんな彼女も10年は鏡が見れなかった、というんです。さらっと書かれているけれど、10年です、10年。乗り越えるのに10年。どんなに苦しい10年だったことだろう。彼女について書かれている部分は少ないのですが、とても印象的です。

 

シモンもイエルトルドも孤独かもしれないけれど、自分を取り戻して自由に生きている人たち。私たちは、果たして自由に生きてるだろうか?そんなことを問いかけられた気がします。

 

最後の父子の向き合う様子もとてもよくて、冬から春に向かう素敵な物語でした。ぜひ。

 

想像力とは多面的に見れること

スリランカのお祝い料理!

彩りの美しいことよ

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Think EAT Lab主催、先月の世界のお祝い料理の会はスリランカでした。

スパイスの魅力にすっかりハマってしまわれたという、池上本妙院のご住職が教えてくださるというから興味深いではないですか。

 

てっきり仏教つながりで、スリランカに行ってらしたのかと思いきや、まったくのプライベートだそうで(笑)。なんと、お寺のお庭にもカレーリーフの木があるそうです。

 

お料理会の楽しい様子は、Think EAT Labさんの詳しいレポートをどうぞ↓

www.think-eat.info

 

スリランカといえば、素敵な絵本作家さんがいらっしゃいました。うちの子のお気に入りだったのはコチラ↓

『かさどろぼう』(2007年)シビル・ウェッタシンハ作絵 猪熊葉子訳 徳間書店

 

スリランカの昔話を描いたこちらも素敵でした↓

『ふしぎな銀の木』(2017年)シビル・ウェッタシンハ作絵 松岡享子訳 福音館書店

 

児童文学でいうと、以前もご紹介したこちらを再度紹介させてください。

『茶畑のジャヤ』(2015年)中川なをみ作 門内ユキエ絵  鈴木出版

 

国学図書館協議会選定図書

(うん、いかにも大人が子どもに勧めたそうな話だ 笑)

 

実は海外の翻訳文学は苦手って人も少なくないんですよね。

私個人は、幼い頃から異文化への憧れが強かったので、知らないモノ(特に食べ物!)を妄想してはワクワクしていたのですが、イメージできないものには共感できない、感情移入しづらい、という意見を聞いて、ナルホドなあ、と。

 

異文化に出会いたいけれど、海外翻訳文学は苦手という方におすすめなのが、今日の一冊です。

 

いわゆる優等生ゆえに、クラスの子たちとうまく行かず、学校から逃げ出したい主人公の周。そんな風に思っていたところ、スリランカに仕事で時々滞在しているおじいちゃんから、一緒に行かないかとの誘いを受け、思い切って行くことに。

最初は不潔で嫌だと思った建物、食べ物。

ルーズに思えてどうなの?と思った現地の人々。

セナの娘ジャヤと出会うことによって、だんだんと見る目が変わっていく成長物語。

 

■ 違いは悪くない!

この物語は、日本人には想像しがたい民族間の抗争についても考えさせられます。

戦争の語り部でもあるセナから、26年間続いたタミル人VSシンハラ人の内戦の話を聞いて驚く周。だって、死者7万人以上も出したこの内戦が終結したのは、2009年。そんな昔の話じゃないんです。

外国人である自分にはみな親切なのに、自国内でタミル人とシンハラ人はお互いに悪口を言い合っている。ちょっと人間不信になりそうかも・・・!?

で、実はジャヤの両親はタミル人とシンハラ人が結婚した非常に珍しいケース。

ロミオとジュリエット的な?

タミル人はヒンドゥー教、シンハラ人は仏教と宗教も違うからややこしい。

でも、ジャヤはこう言います。

 

おいのり、ちがう。カミサマ、ちがう。こまることある。でも、どちらもだいじって、母さんいった。ちがうこと、悪くないし、ちがうこと、きらったら、だめ。いちばん悪いって、いつも父さんがいう。わたしもそう思う。人はみんなちがう」(P.149)

 

そうそう、違いは悪くないの!

 

そして、ジャヤは、

 

たくさん想像できる人は、人を殺さない。悲しみが想像できるから(P.109)

 

と言うのです。想像力とは、物事を一面からでなく、多面的に見れること。

響くなあ。

 

■ 人が太刀打ちできない世界を知る大切さ

ジャヤとの出会いによって、どんどん目が開かれていく周ですが、中でも

「一人でもOKだけれど、みんなと一緒だったらハッピーになれる。」

というジャヤの言葉に目の前のモヤが晴れて行くような気持ちになるんです。

一人でも別にいいんだ

これは周にとっては、新鮮な考え方だった。

一人でいることがただ不安、あの子一人なんだと見られることが嫌。人からどう思われるかを気にしていて、一人が寂しいと感じる余裕もなかった、と周は気づくのです。

 

すごいよ!小学生でそれに気づけるなんて!

 

大人だって、自分の感情と向き合うことなく、ただ人からどう見られるかで不安になってる人いかに多いことか。

一人でも別にいい。でも、みんなと一緒だともっと楽しいこともある。

そう思えたら強いよね。

そんなとき、人が太刀打ちできない自然の世界があることを知るって、とっても大切な気がします。

 

無力だと知ること。それは、呆然とするとともに、ちっぽけな自分も宇宙の一部なんだというつながりをも同時に感じることだと思うんですよね。

周はそれを、海辺のリゾート、ミリッサで波と格闘することで気付くのです。

この場面よかったなあ。

小学校高学年からおすすめです。

 

さあ、あなたも盛り上げ役の一員に!

 

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BOOK MEETS NEXTってご存知ですか?

book-meets-next.com

 

秋の読書キャンペーンを、出版社書店、業界が一丸となって盛り上げていこう!という企画だそう。これね、キャンペーンの賞品が豪華!読書好きにはたまらない、これは参加しないとモッタイナイ!というわけで、お知らせです。だって、あまり知られていなさそうだったから(小声)。

 

10月27日にオープニングイベントで、今村翔吾氏の記念講演会と、角野栄子さん&中江侑里さんの対談があり、ちょうど都内にいたので聞きに行ってきました。

 

す、すごい。席の3分の1が招待された関係者&報道陣席で、何やらものものしい雰囲気。もしかして、場違いなところ来ちゃった!?そんな思いがよぎりましたが、そんな思いも、今村翔吾さんが吹き飛ばしてくれました!お目当ては、児童文学作家角野栄子さんのお話だったのだけれど、今村氏のお話が面白くて面白くて。11月8日にアーカイブ配信されるそうなので、ぜひ。

 

私自身、かなり頻繁に色んな本屋さんに立ち寄っている方だと思うのですが、それでもこのキャンペーンのことは知りませんでした(目に留まっていなかっただけかも?)。率直な感想として、キャンペーンするならもっと前から告知したほうがいいんじゃない?ってことでした。一丸となって盛り上げるといっても、あの雰囲気は読者置いてきぼりのような……業界側が現場を知らない感がしてしまったのです。

 

が!!!

今村氏はですね、全国47都道府県、271か所の書店や学校を周られた、まさに現場ばかり見てまわってきた達人だったのです。肌でいまの本との出会いの現場を感じてきた方。もう熱量がすごかったです。

 

www.zusyu.co.jp

 

そんな今村氏が印象的だったと語ったのは、全国の書店が次々に閉店していってニュースばかり聞くけれど、書店のリアルは本屋は死んでいない、ということだったこと。書店側は全然あきらめていないどころか、書店員さんはやりたいことを語ることが多くて、希望の光だった、と。ちなみに訪ねた中で、一番小さな書店は、4坪(そのうち2坪は家電売り場)のクロスワードと客注のみを扱う書店だったそう。

 

また、若者の読書離れが叫ばれるけれど、小中高の学生たちは決して読書離れしていなかった、と。離れているのは、他の選択肢が一気に増える19歳から25歳。この層に、いかに読書が日常の中にあるようにしたもらうかが課題、とおっしゃっていました。

 

読書が好きな人はね、放っておいても自分で勝手に読んでいくんです、課題は本を読まない人にどうやって伝えるか、色んな切り口で面白いということを伝えていくかなんです。

 

YouTube動画などと比べて、読書の最大の魅力は、その“遅さ”にある。時間がかかるからこそ、作者と読者の間に対話が生まれ、心に刻みこまれる。

 

もう激しく同意。

 

あとね、今村さんは読者の口コミの力をすごく信頼していて、主婦たちのおしゃべりでの口コミはSNSにまさると実感しているそう。

 

ああ、これ分かる気がする。SNSって広がるスピードと範囲はとてつもなく広いので、それはそれで希望ではあるのだけれど、実際に手に取るところまでいかせる力は、直接人から人へのほうがある気がするんだなあ。

 

だからね、私なんて非力とか謙遜せずに、私たち読者一人ひとりが「これ素敵!」「これはこの人にぜひ!」と思った本はどんどん伝えていきたいな、って思いました。

 

というわけで、キャンペーンは11月23日までなので、みなさんぜひ書店に通ってみましょう。豪華賞品をねらいで(笑)。

いや、賞品ねらいも本気ですが(本気なんかい)、本に囲まれている空間にいるだけで、色々刺激されると思うんです。書店が人でいっぱい、そんな景色が戻ってきますように。

 

京都個性派書店訪問記

先週は、秋入り口の京都へ

先週は4日ほど京都を堪能してきました!行ったメインの理由は、藤井風の大阪パナスタライブがあったから。そのレポも書きたいと思いつつ、この読書ブログでは需要がないかな、と。

 

いや、実は書きはじめてはみたものの、藤井風王国建立?教祖誕生?への戸惑いへの考察だけでも論文かいな?くらいの長文になったので、やめておきます(笑)。

 

というわけで、せっかく関西まで行ったので、行ってきました!

ずっと気になってた京都の個性派書店さんへ。

 

まずは、恵文社一乗寺店さん。

雑貨店やイベントスペースも

レトロ感が素敵

 

恵文社一乗寺店は、イギリスのガーディアン誌が2010年に発表した「世界で一番美しい本屋10」に日本で唯一選ばれた書店として有名な本屋さん。

超絶方向音痴の私、昨年京都に行ったときも行こうと思ったのですが、たどり着けず。今回は、京都在住のお友だちが車で連れて行ってくれるというので甘えてしまいました。

 

京都の土地勘がないので、よく分からないのですが、いわゆる主要な駅近ではないと思われる場所にあります。でも、いや、だからこそ、この店に入ってくる人たちはここ目指して来た人ばかりという感じがすごく伝わってきました。駅前だと、待ち合わせまでの時間つぶしで入る人とかも多いけど、それとは明らかに雰囲気が違う。

 

お客様の本を見る目がみな真剣!!!

 

ここで自分のための一冊に出合いたい!

ここで買いたい!

 

そんなお客さんたちの思いが、空気中にただよって見えるかのようでした。

 

正直、お店のデザイン的にセンスの良い店は増えてきていて、他にもたくさんあると思うんです。でも、選書を見ると、違いが見えてくる。お店側の熱量ってやっぱり伝わってきますよね。(そういう意味では、児童書のところは私に選書させて~って思いました←ずうずうしい笑)。

 

連れて行ってくれたお友だちから、”なんで本が売れないんだろう?いまの人は読まないってよく言われるよね”、と問われたのですが、それは売る方も作り手のほうも、すぐに売り場にある本を入れかえちゃうからというのも大きいと思う。出版・絶版のサイクルが早すぎだなあ、って。“待つ”ということをしない。本棚のキャパが決まっているので、飽きさせないために入れかえを頻繁にする、というのは分かるんです。でも、以前金原瑞人さんも言ってました。これから何十年も読み継がれる本を、というよりも正直2,3年たくさん売れたらそれでいい、という出版が増えてる、って。消費される本。

 

本って、出合うタイミングがあるよなあ、って。何年も前に人からすすめられていたけれど、そのときは気にならず、やっと手に取ってみようと思った頃にはすでに絶版、なんてケースも多いのは残念。

うちの夫なんて、10数年前に上橋菜穂子さんならだれでも夢中になるだろうと思ってすすめたら、「物語、苦手かも」といい、10ページも読めませんでした。それが、いまでは夢中になって読んでいます。私には、その光景がいまだ信じられなくて、実に感慨深い(笑)。

 

新刊に出合う楽しみもあるので、何十年と読み継がれるような、気合の入ったものを出してもらいたいなあ。

 

恵文社さんは、読み継がれる本が置いてある、カルチャーが生み出される、そういう本屋さんでした。

 

もう一つ!恵文社さんの名物店長だったという方が独立して作られたという誠光社さんにも行ってきました。駐車場ができず、時間もあまりなかったので、さっとしか見れなかったのが残念だったのですが。

 

街の中の小さな光

うん、名前の通り誠実な光を感じました。

表向きは、普通の個人書店に見えて、流通など仕組みの部分で挑戦をしている本屋さんなんです。そして、その試みをできるだけオープンにして、同じような仕組みの本屋さんを全国に増やして、薄暗くなりつつある街も少しは明るくなるはず、って。何それ、泣く。

 

自分の店だけで必死なところが多い中、同じ志を持つ人たちに発信し続けて、街に本屋さんを増やしたいという思い。こういう志高い方がいることが、希望の光。

 

京都を訪れた際には、ぜひ。