Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

自然と共にある暮らしの本7選

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はああ、こんなピクニックしたい(花より団子)

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毎日雨ですねえ。雨音聞きながら読書をするのが好きです。一歩も家出たくない。引きこもって、ひたすら読書できたら最高なんだけどな~、と思う日々。

 

さて、今月も某紙面でお薦めの本紹介したので、こちらでもご紹介。

コロナ禍ですからね、こんなときこそ“自然と共にある暮らしの本”というテーマで7選ご紹介しました。

 

このテーマでは、おススメしたい本が実はありすぎて、7選に絞るのが、いやあ大変でした。なので、手渡さないと出会えないかな?と思われるもの、入り口として入りやすいもの、逆にマニアックなものと織り交ぜてみました。

 

【目次】

 

 1.『ツバメ号とアマゾン号

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ツバメ号とアマゾン号』(2010年)アーサー・ランサム著 神宮輝夫 岩波書店

まずは、コチラ! ランサムサーガと呼ばれるシリーズ全12巻の1巻目ですね。1巻以降は順番に読まなくても、大丈夫。単独で楽しめますが、まずは1巻から始めたほうが人物関係が分かるかな。

 

内容は、小さな帆船“ツバメ号”に乗り、子どもだけで(!)無人島での夏休みを過ごすウォーカー4兄弟の冒険物語です。アウトドア万歳。こんな夏休み過ごしてみたい!と時代を越えて楽しめること間違いなしです。こんな恵まれた休暇は、現実的にはなかなか過ごせないけれども、ごっこ遊びや空想ならいますぐにでもできそうで、ワクワクする1冊です!自然の中へ飛び出して遊びたくなりますよ~。

 

2.『リンバロストの乙女』

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『リンバロストの乙女』(2014年)ジーン・ポーター著 村岡花子訳 河出書房新社

リンバロストの森の端に住み、学校に通うために虫の収集で学費を稼ぐ、少女の自立の物語。博物学者でもある著者による、確かな自然描写が魅力の一冊です。蛾がこんなにも興味深いとは!蝶はキレイ、蛾は嫌!という概念が覆りますよ~。学びたいという強い意志、そして、母との確執を乗り越える少女の姿に励まされます。村岡花子さんの訳すものがお好きな方なら、気に入ること間違いなしです。

 

 3.『海辺の宝もの』

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『海辺の宝もの』(2012年)ヘレン・ブッシュ著 鳥見真生訳 あすなろ書房

12歳で世界的な大発見をした、世界初の女性化石採集者メアリー・アニングの数奇な運命をたどる伝記物語です。実は、私、伝記ものが苦手なのですが、これは主人公の心情描写が多いので、ぐいぐいと引き込まれました!

 

化石の魅力が詰まった一冊で、化石に興味のなかった人(私)でも、その魅力に魅了されてしまうこと間違いなし。急に博物館で見る化石たちがイキイキと見えてくるから不思議。たとえ無学でも、自然の中で好奇心を失わないことは、すべて学びにつながるということも教えてくれる物語です。

 

4.『トナカイに生かされて シベリア遊牧民ネネツ』

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『トナカイに生かされて シベリア遊牧民ネネツ』(2020年)長倉洋海写真・文 福音館書店

シベリアにトナカイと生きる遊牧民ネネツの家族の暮らしを追いかけた写真絵本です。短いのにエッセンスがぎっしり。トナカイで暮らしのすべてをまかなう人々が、同時代にまだ生きている。そのことを知ることは大いなる希望なんですよねえ。「自分は世界で一番幸せ」と言い切る彼らから感じ入るものは大きいです。

 

5.『樹木たちの知られざる生活:森林管理官が聴いた森の声』 

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『樹木たちの知られざる生活:森林管理官が聴いた森の声』(2018年)ペーター・ヴォールレーベン著 長谷川圭訳 早川書房

 

樹木の驚くべき社会的営みを豊かな経験と科学的事実に基づき描く傑作。ファンタジーじゃないんです、科学的事実に基づいてるから、万人に説得力がある。樹木たちが社会性をもって、お互いに助け合って生きているなんて、驚きですよね!いや、個人的にはもともとそう思ってたから驚かなかったけど(笑)、でもそれが科学的にも証明されたのが嬉しい。ここに書かれていることを知ると、世界観が変わること間違いなしで、散歩をする際に樹木を目にしても見える景色が変わると思います!

 

 6.『英国貴族、領地を野生に戻す:野生動物の復活と自然の大遷移』

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『英国貴族、領地を野生に戻す:野生動物の復活と自然の大遷移』(2019年)イザベラ・トゥリー著 三木直子訳 築地書館


先端知見を集めた環境復活実験を、ダイナミックに描く全英ベストセラー。上記『樹木たちの知られざる生活』のあとに読みたいのがコチラ!樹木に加え、野生動物たちの復活がどう環境再生に関わってくるのか、ひじょーーーーーに興味深く、未来へのヒントがここにあります!

 

 7.『センス・オブ・ワンダー

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センス・オブ・ワンダー』(1996年)レイチェル・カーソン著 上遼恵子訳 新潮社


いつまでも「神秘さや不思議さに目を見張る感性」を失わないでほしいという願いを、詩情豊かに語ったエッセイ。このブロブでも何回も紹介していますが、最後はやっぱりこちらにしました。いままで紹介してきた本を見て、「あー、でも自分は都会暮らしだしなあ。しょせん無理」と思いがちな人に届けたかったのです。

 

「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない、と著者。たとえ都会暮らしでも、センス・オブ・ワンダーさえ見ウシわなければ、驚きと感激に満ちた豊かな人生を送れることを教えてくれます!そう、どこにいても大丈夫!地球に暮らしている限り、見上げれば空がある!風を感じられる!

 

 

まだまだ入れたい本はいっぱいあったんですけどね。

人は、自然から離れると”不”自然になってしまうんだと思います。自然体でいたい。

みなさまのお気に入りも教えていただけると嬉しいです! 

夢にまっすぐな姿は胸を打つ

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『ハリスおばさんパリへ行く』(1979年) ガリコ作 亀山龍樹訳 講談社

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今日の一冊は、ぜひぜひ復刊してほしいコチラのシリーズ!

私が読んだのは多分中学生のときかな。面白くて一気読みの大好きなシリーズでした。

 

一度復刊ドットコムにて復刊したみたいですが、いまはもう高値がついてますね……。

映画化しないかなあ、と思って調べてみたら、ナント!2022年、来年公開されるそうではないですか(日本は未定だけど)。これは、復刊に期待ですね!

 

ところで、私が持っているのは、講談社文庫版なのですが、そこに挟まっていた講談社文庫童話ファンタジーフェアの案内でびっくり。ええー、ガンバシリーズの『冒険者たち』や『長くつ下のピッピ』も講談社文庫から出てたんだ!しかも、200円台って……時代を感じる値段よ(笑)。

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もう一つ驚いたのは、当時の講談社文庫の文字小さっ!

そんなこんなで、内容は古びなくとも、昔からある蔵書って、装丁やら値段設定やらに色々と時代を感じて、いやあ楽しいですね。

 

では、内容いってみましょう!

 

『ハリスおばさんパリへ行く』あらすじ

陽気で働き者のロンドンの通い女中のハリスおばさんが、ある日、一目見てわたしの欲しいのはこれだと決めたもの、それはディオールの高価なドレスだった。節約して大金を作りパリへ行ったおばさんは、やっと憧れのドレスを手に入れるが……。軽快な筆致で人生の哀歓をユーモラスに描いたガリコの代表作。(裏表紙より転載)

 

作者のガリコとは、ポール・ギャリコのことです。

実は、細かい内容はさほど覚えてなかったのですが、読んでいくうちにみるみる思い出していく。うん!文句なく面白い!ところが、ですよ。びっくりしたのは、子どもの頃はただただ面白かったという印象だったのですが、大人になってから読むと色んなところにグッときちゃって、なんだか泣けてくるんです。ああ、いつの間にか私はハリスおばさんのような純粋な心を失っていたかもしれない、おばさんのような自立した素敵な女性になれてないかもって。

 

そんなハリスおばさん、3年かけて貯めたお金でやっとパリへ飛ぶのですが、そりゃあもちろん格好やしゃべる言葉(イギリスは階級によって発音も違うので)でお里がバレてしまう。ディオールですよ?本店ですよ?当然、ハリスおばさんのような人はあまりにもおかど違い。女支配人のマダム・コルベールは自身の悩みごとで朝から不機嫌だったことも手伝い、当然追い返そうとします。が、そのとき、ハリスおばさんはこう言い放つのです

 

「なんだよう!あんたたちフランス人は、人情ってもんがないんだね!へん、おまえさんは口だけはたっしゃだが、心は氷のようなお人だよ!あんたは、なきたいくらいに、なにかがほしいって思いつめたことはないのかい。なにかがほしくって、ほしくって、夜もねむれず、それが手にはいらなかったらどうしようと、心配でふるえながら、夜通しおきていたようなことはないのかい」(P.88)

 

憧れへのまっすぐな気持ち。もともと賢婦人だった、マダム・コルベールはグサリとこの言葉にやられるんです。私もやられました。あまりにもまっすぐな思いに、思わず泣いてしまったのです。

 

個人的には、ファッションにはぜっんぜん興味なくて、何ならスティーブ・ジョブズみたいに毎日着るもの決まってたら楽でいいな、くらいに思ってる私なのですが、気づいたらハリスおばさんがディオールがほしいと思う気持ちに痛いほど共感していた。

 

誇り高く、嘘偽りなくまっすぐ自分を生きている。たくましく、勇気があり自立した女性、それがハリスおばさん。聖人とは違います。噂好きだし、世俗的。でも、なんて魅力的なことか。マダム・コルベールもそれに気づき、ショーの特等席へと案内するんですね。本質が見れる人って、清々しい!!!他の登場人物たちもとっても魅力的で清々しい!職人の世界もとっても魅力的です。そこへ、スターモデルのナターシャ嬢と会計係のフォーベル君の恋愛模様も絡んでくるのですが、アモーレの国おフランスっぽくなくて、むしろひと昔前の日本人の感覚に近くて、奥ゆかしい。

 

そこからは、とんとん拍子で、さすが児童文学と思いきや。いきなりの冷たい現実もつきつけてくるのがギャリコらしいなあ。改めて、大好きな物語でした!

 

ところで、余談ですが、2022年公開映画のキャスト、スターモデルのナターシャ嬢役のAlba Baptistaという女優さんは写真見てみたら、イメージと違った。私の中では、どちらかというとナタリー・ポートマンみたいなイメージだったんだけどな。しかし、女優さんは映画によって雰囲気変えてきますからね。楽しみです!

ブーツを履け、そして一歩踏み出せ!!!

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『そして、僕は旅に出た:はじまりの森ノースウッズ』(2017年)大竹英洋作 あすなろ書房

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今日の1冊は、進路に迷う人たちに勧めたいコレ!

 

もうね、前々から友だちに勧められていたんです。でも、なかなか読む機会がなくて。

で、やっと読んでみたわけなんですが、もう途中でその友だちにメッセージしましたよね。

“教えてくれてありがとう!泣きながら読んでる!!!”

って。まだ、半分くらいしか読み終わっていなかったのに。途中でも、伝えられずにはいられなかった。

 

大竹英洋さんは、自然写真家。星野道夫さんを彷彿とさせます。

でも、誤解を恐れず言ってしまえば、星野さんほど文章も洗練されているわけでもなく、むしろぼくとつとした感じ。「です、ます調」も個人的にはちょっと苦手でした。

 

しかーーーーーーし。大竹さんの文章は、非常に素直というか等身大でまっすぐなんです。自分をかっこよく見せよう、大きく見せようだなんて、これっぽっちも思ってない。だから、心というか魂にまっすぐ届くんですね。

気付いたら、泣くような場面でもないところでも、泣きながら読んでいました。魂が呼応したとでもいうのか。

 

もうもう、心に響くところはいっぱいでしたが、私は特に大竹さんが憧れていた写真家のジム・ブランデンバーグに会えたところに胸打たれました。

 

あとはね、思いがけず一緒に過ごすことになった南極探検家のウィル・スティーガーの言葉。どうやったら探検家になれますか?と尋ねる子に対し、

 

Put your boots on, and start walking!(ブーツを履いて歩き出せ!)

 

というんですね。歩き出さないと何も始まらない。

これだけ、読んだら、まあ、そうよね、って感じかもしれなせんが、ここまで一緒に大竹さんと旅してきた読者にとっては、これが号泣もんのセリフなわけです。

進路に迷う人には読んでほしいなあ。夢に進むってことは、どういうことなのか、っていうこと。特別な人じゃなきゃなれないとかじゃなく、実は何かを成すのはとってもシンプルなことの積み重ね。まずは、歩き出さなきゃ始まらない、ってこと。

 

大竹さんはね、自然写真家になりたい、っていう夢も、不思議な夢に導かれているんですね。スピ系(スピリチュアルなもの大好き系統)の人なら、喜んじゃいそうなシチュエーション。でも、これも大竹さんにとっては半信半疑なわけです。こんな夢に導かれてここまできちゃうなんて変ですよね、って。そこが、また好感が持ててよいんだなあ。迷いもあるし、そんな大それたことをやってのけちゃうような人には見えない。

 

そんな大竹さん、もともと大学時代は、ジャーナリストになりたかったそうです。

それが、ワンダーフォーゲル部に入り、自然に触れることで変わっていきます。

新聞やニュースを見ていて、悲しい事件、変わらない政治、不安をあおる経済情勢を声高に叫ぶことに疑問を抱き始めるのです。

 

そもそもぼくが伝えたいと思うようなことは、「ニュース(NEWS)」、つまり「新しいこと」ではない。沢の水の美味しさも、野生動物の輝きも、星空の美しさも、いまこの瞬間に伝えなくては価値が消滅してしまうような情報ではありません。いってみれば、「ただ、いつも、そこにあるもの」にすぎないのです。

 しかし、人と自然のつながりが見えにくくなったこの現代社会のなかでは、なんの変哲もないような自然のことこそ、伝えるべき価値があるものに思えてなりませんでした。(P.166)

 

 

んもぉーーーーー、大竹さん、あなたって人は。自分の価値観を押し付けるでもなく、どこまでも謙虚。

ここを読んだとき、以前TEDを見て衝撃だったセバスチャン・サルガドを思い出しました。サルガドは、以前有名な報道カメラマンでした。でも、そっちばかりにフォーカスしていた彼は、精神を病んでしまった。世の中の負の部分を伝えるのは大事かもしれない、でも、もっと大事なものがある。その後、彼は故郷に戻り、熱帯雨林を再生させて、自然写真家に転向するんですね。そして、彼自身も生き返る。

 

いま、私たちに必要なのは、そちらなのではないか。

ニュースを目にすれば、こわがらせるような内容ばかり。今日の感染者数、死亡者数。いやいや、だからこそ毎日笑って免疫あげるのが大事なのでは?こんなときだからこそ、センス・オブ・ワンダーを全開にすることが大事なのでは?そちらを伝えたい ↓

 

www.ted.com

 

とーっても、素敵な本でした!誰かに贈りたくなる。

中高生にもぜひぜひ勧めたいと思う1冊でした。

 

人を頼るのは恥ずかしくない!

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『飛ぶための百歩』(2019年)ジュゼッペ・フェスタ作 杉本あり訳 岩崎書店

 

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今日の一冊は、こちら!昨年度2020年の小学生高学年の部の課題図書だった物語です。

 

表紙絵が素敵!ポストカードであったらほしいくらい。

 

内容は、目の見えない14歳の少年ルーチェが、叔母と大好きな山歩きに来たとき、山小屋で会った少女キアーラと山岳ガイドティツィアーノに出会います。4人は、とワシのヒナを見に行くことにしたのですが、密猟者たちがヒナを狙っていて……というもの。

 

目が見えないからこそ、感じる山の魅力。視覚以外の感覚を研ぎ澄ませることで、見えてくる別の景色。その感覚が少しわかったような気がして、そこがよかったなあ。

 

そして、本音でぶつかり合って結ばれる友情。あら、王道だわ。身近な叔母ですら、壊せなかったルーチェの意固地さが、同世代とぶつかり合うことで溶かされる。

 

ナルホド。

課題図書に選ばれるの、分かる気がしました。

自然の魅力、人はもっと人を頼っていいんだよ、ってこと教えたかったんだろうな。

作者が環境教育に従事されているというプロフィールを見て納得です。

 

ただ、ストーリーは好きだったのですが、個人的にはあまり入り込めなかったかなあ。

特に、ラストは、ん???はて???一瞬ポカーン。二度読み。私と同様、置いてきぼりにされちゃう読者多いのでは、と思ってしまった。

 

それよりも、個人的に興味があったのは密猟者のほう。

密猟者もね、自然を熟知していないと密猟できないんです。

これだけ自然と触れ合っても、彼らにはセンス・オブ・ワンダーは芽生えなかったのかな、って。どんな人生歩んできて、どこで自然の中でのサバイバル技術身につけたんだろう?なんで、そっち方面に転んだ?とかそちらのほうが知りたくなってしまった。

 

とはいえ、この物語をきっかけに山や鳥に興味を持つ子も出てくるのでは?と期待。

 

鳥っていいですよね!以前、鳥テーマで児童文学ピクニックをしたことがあるのですが、さまざまな鳥に関する物語を読んできて、見えてきたもの……それは、”自由”でした。

密猟者から鳥を守るという物語では、こちらもおススメです(というか、こちらのほうが個人的には好きだった)↓

 

blog.goo.ne.jp

夏至に読みたい物語

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ムーミン谷の夏まつり』(2011年)トーベ・ヤンソン作 下村隆一訳 講談社文庫

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今日は夏至ですね。

色んな物語の中で、夏至は特別な夜として描かれていて、子ども心にも何か神秘的なものを感じていたような気がします。

枕の下にある植物を入れて寝ると将来の結婚相手が分かるとか、この日に摘む薬草は特別だとか。

 

夏至の日には、何か特別なことが起こる……。

人間と人間界以外の世界、自然だったり、スピリットだったりの境が曖昧になって、色んな世界がぐっと近くなり、混在する……気がする。

なんだか、ムズムズ、ワクワク、そしてちょっぴりゾクゾクするんですよね。

 

というわけで、今日の一冊は、ムーミンシリーズの中から、ムーミン谷の夏まつりをご紹介。シリーズ5作目ですが、どこから読んでも大丈夫。ま、多少登場人物がよく分からないということはあるかもしれませんが。

 

今回も面白かったなあ。子どもの頃に出合っていたかったなあ。

子どもの頃の私にとってのムーミンは、アニメで、あまり興味なかったんです。惜しいことをした。だってね、ムーミンを読むと、もう彼らの世界が存在しているとしか思えないんです。心のどこかに彼らの世界を持つ、それはとっても大切なことのように思う。

 

さて、今回もストーリーは突拍子もないですよ~。

火山の大噴火でいきなり大洪水が押し寄せ、ムーミンたちの家は水没してしまいます。

でも、めげないというか、飄々として、状況を楽しんでさえいる彼ら。変にポジティブなわけでもなく、いつだって自然体なのが何ともいえずいいんだなあ。

 

とはいえ、水面はどんどんあがってきて、いつまでも家にはいられない。そこへ、流れてきたのが、なんと……“劇場”!彼らは、ぷかぷか浮いて流れてきた劇場へと住処を映します。ところが、ムーミン一家をはじめ、そこに移り住んだ面々は、劇場がなんたるかを知らなかったから面白い。

 

そして、ある日。途中、木の上で寝ていたムーミンスノークのおじょうさんを置いて、劇場だけ流されてしまい、ムーミンスノークのおじょうさんは家族と離れ離れになってしまうんです。もう、びっくりですよ。

悲しいとかいいつつ、動じないで楽天的なムーミンママ。すぐにごっこ遊びに切り替えて、のりきっちゃうムーミンスノークのお嬢さん。

これですよ、これ!人生、みな自分が主人公のお芝居なんですから、楽しんじゃえばいんです。困難を乗り切るには、芝居にしちゃうのが一番!

 

そして、夏至の夜。

 

ムーミンたちのおかげで、ムーミン谷の夏至を味わうことができました!

 

夏至といえばこちらも大好きでした!

いかにもヴィクトリア朝後期のイギリスって感じが好き。でも、絶版なんですよね。図書館で見つけたら、ぜひ。↓

blog.goo.ne.jp

 

そのほかにも、上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』の中でも、夏至は特別な日でしたよね。夏至が出てくるおススメの物語があったら、ぜひ教えてください。

 

みなさま、素敵な夏至の夜を。

飛び出せ!環境を変えよう!

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『はみだしインディアンのホントにホントの物語』(2010年)シャーマン・アレクシー作 さくまゆみこ訳 小学館

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今日の一冊は、ずっと読みたいリストに入れてあって、やーっと読めたコチラ!さくまゆみこさんの訳されるものも、ハズレなし!です。

 

ああ、これはもう思春期男子たちに差し出したい!もちろん女子にもなのですが、下ネタがちょいちょい入ってて男子が喜びそう(←そこ!?笑)だし、さくさく読めちゃうから、本好きじゃない子でも読めそう。

 

 

■深刻な状況でも軽やかに生きられる

 

内容は、ざっくりいうと、北米先住民スポケーン族の保留地に住む14歳の少年アーノルド(ジュニア)が、先生のすすめもあり、エリートの白人だらけのリアダン校に転校することによって、さまざまな発見と成長をする物語です。保留地でも、もともとイジメられていたのが、ますます孤独感や疎外感を感じていくことに……。

 

わ、重たい!と思うでしょう?

ええ、内容はすごく重たいし、びっくりするくらい悲惨なことが次々に起こります。両親はアル中だし、お姉ちゃんは引きこもり、親友は親から虐待されてるし、自分自身のイジメに加え、次々と起こる死……。

 

ところが、ですよ。主人公の一人称語りの文体がものすごく軽くてユーモラスなんです。挿絵もポップで、現代っ子たちが好きそうな感じ。もし、私が主人公と同じ状況にいたら、絶対誰かを恨んじゃう(断言)。誰かを恨んで当然のような仕打ちばかり受けているのに、この主人公は実に軽やかなんです。

 

もちろん、何も感じてないわけじゃないんです。怒るし、つらいときは号泣します。でも、悲劇のヒーローに陥ってない。運命にチャレンジしつつも、変えられないと思うところは受け入れているんだなあ。

 

ちょっと変わった物語。

 

日本の現代っこたちとは、あまりにも違う環境なのですが、それでも彼の悩みは普遍的なんです。だから、もう共感しまくりで、力をもらえる。作者の自伝的要素満載(78%が事実だそう)で、主人公が等身大で語っているから、説教臭くないのもいい(←ココ重要)。

 

■ブーイングが出た理由とは

 

ところで、この物語、実は賛否両論だったようです。

インディアン保留地(居留地)と聞いたら、みなさんは、どんなイメージを持ちますか?今でこそ、自治権を認められていたりする地域もあるけれど、彼らが入れられた当初は、白人同化政策が取られていました。まさに負の歴史。

 

白人が彼らから奪ったものとは???

単に土地だけじゃないんです。故郷、文化、アイデンティティ、世界観、誇り、希望、すべてを奪った。白人にとっては、単なる土地だったかもしれないけれど、彼らにとっては母なる大地。それを切り売りするなんて考えられなかった。

 

そして、悲しいかな、いまも彼らのほとんどがアル中です。いつだって暴力沙汰を起こしているか、もしくは怠け者のレッテルを貼られています。保留地での暮らしは、問題だらけ。でも、なぜそうなってしまったのか、そこが大事で。これ、白人同化政策を取られた、世界中の先住民族に共通しているんですよね。

 

そんなわけで?この物語は、一部からブーイングが出ています。

なんと!全米図書館協会が過去10年(2010年~2019年)に抗議が多かった本トップ100を集計して発表した中で、こちらが堂々の1位だったというではありませんか↓

https://www.ala.org/advocacy/bbooks/frequentlychallengedbooks/decade2019

 

え、なんで!?!?抗議してる人たち、ちゃんと読んだ???

最初は驚きましたが、まさにこの結果が、いまだ彼らがきちんと理解されてないことをあらわしているような気がしてなりません。

抗議側の理由としては、性的な話やアルコール依存、暴力描写が出てくるから子どもにふさわしくない、という主張らしいのですが。いやいや、世の中もっとひどいものであふれてますよ?この物語の中では、確かにそういったものも出てくるけれど、それらはさらっと書かれていて、これでもかこれでもかとえぐるような表現はないのになあ。それに保留地の話はアルコール依存とは切っても切り離せない現実。現実見なくてどうするんだ。

 

主人公の両親もアルコール依存症です。でもね、しらふの時は素敵だし、彼らなりに子どもたちをしっかり愛してる。ダメな大人たちもたくさん出てくるけれど、みんな愛おしい。

 

■環境を変えろ!飛び出せ!

 

読めば、きっとそれぞれに響く箇所があることでしょう。書き留めておきたい言葉もいっぱい。印象的なところはたくさんあるけれど、この物語が一番伝えてくれていることは、痛みは伴うかもしれないけれど、希望が見えなかったら飛び出せ!ってことなんだと私は思いました。

 

主人公はホントに辛かったと思う。どっちつかずなんですよ。白人社会にもなじめず、保留地のみなからは裏切り者とみなされ。原題はThe Absolutely True Diary of a Part-Time Indianですからね。フルタイムじゃなく、パートタイムのインディアン……。

 

一番最初に、主人公に環境を飛び出すことをすすめてくれたP先生との会話は泣きました。

 

「きみは、いい子だよ。世界を手に入れて当然なんだ」(P.64)

 

これはね、もうすべての子どもに聞かせたい言葉。

あきらめちゃいけない。

 

でも、希望が見えなかったら……?

環境を変えたらいい。

裏切り者と思われるかもしれない。新天地でも孤独になるかもしれないし、もっとつらい思いをするかもしない。でも、いまいる場所で希望が見えなかったら、やっぱり飛び出して、何か一歩でも踏み出してみるしかないんだ。

 

で、ふと思ったんです。不登校の子たちもそうなのかもな、って。

希望が見えなくて、学校へ行くことをやめてみた。けど、やめた世界も決して楽園ではなくて。これでよかったのかな?って迷うかもしれない。でも、一歩踏み出した。飛び出した。すぐには道は開けないかもしれないけれど、もう元に戻ることは考えなくていいんじゃないかな、って。だって、そこには希望がないわけだから。

そして、外に出たからこそ、外から見るからこそ見えてくる元いた場所の良さも分かってくる。かといって、戻りはしないのだけれど。

 

原書買っちゃおうかな、と迷うくらい好きな物語となりました。

 

 

心が苦しい、それでも読みたい一冊

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『その年、わたしは嘘をおぼえた』(2018年)ローレン・ウォーク作 中井はるの・中井川玲子訳 さ・え・ら書房

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今日の一冊は、心が苦しくなる内容だけれど、それでも読めてよかったと思えたコチラ。自分は基本性善説なのですが、それでも“悪”ってねえ……あるんですよね、残念ながら。

 

《『その年、わたしは嘘をおぼえた』あらすじ》

 

戦争で世界中が大混乱だった1943年、11歳の少女アナベルは、家族と共に「オオカミ谷」と呼ばれる農場で静かな暮らしを送っていた。そこへ、ある日「矯正不可能」という理由で祖父母のところに送り込まれた少女ベティがあらわれた。アナベルを影で徹底的にイジメるベティだったが、それをオオカミ谷近くに住み着いた放浪者トビーに見られ……。

2017年ニューベリー賞オナー受賞作品。

  

最初に言っておくと、児童文学にしては珍しくハッピーエンドではありません。

かといって、バッドエンドというのともちょっと違う感じがするんですよねえ。

人間の嫌なところも、きちんと向き合うようにしてくれる、自分ならどうした?そう問い続けさせてくれる、そんな物語。

 

ただ、まだ人間の汚い部分を知らない子、嘘に関わらなくてもよい子だったら、個人的にはまだ読まなくていいと思います。世の中きれいごとだけじゃない、と気づき始めた子に差し出したい。

 

悪はある。そのときはベストだと思ってした行動が、避けたかった結末をかえって招いてしまった、でもどうすればよかった???

こちらの物語も思い出しました↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

 徹底したベティの悪さには当然ゾッとするのですが、それ以上に個人的にこわかったのは、周りの人たち。自分がベティになることは想像できないけれど、間接的に間違ったことに加担する人間になることは想像できたから。

 

戦争や天災など極限状態が何も起きなかったら、いい人で終わってた人々が、いとも簡単に差別や偏見に加担していく……コロナ禍と重なるところがあります。

いや、時代的に平和でもね、個人が平和じゃなかったら陰湿なイジメはやっぱり起こるわけで。そして、そのイジメ側の開き直り具合というか、ここまで良心の呵責というものがないのか!と驚くのですが、これぞ、まさに先日の『14歳からの社会学』の中で紹介されていた脱社会的存在なんだと思います。↓

jidobungaku.hatenablog.com

 

主人公のアナベルをイジメるベティは、そりゃあもう恐ろしくなるほど悪人で。彼女の身に悪いことが起こったとき、思わず自業自得!とスッキリしてしまいそうになるくらいでした。

 

でもね、忘れちゃいけない。書かれていないけれど、ベティはおそらく幼い頃から被害者だったであろうということを。「矯正不可能」というレッテルを貼られる。あそこまで冷たい人間になれるのは、愛情を注がれなかったからだと想像できるのです。

ベティがああなってしまった背景には、きっと、救えたのに彼女に手を差し伸べなかった大人たちの責任があると思うのです。善悪二元論とはちょっと違う。

もし、ベティを批判したくなったら、その前にぜひ読んでもらいたいものがあるので、ご紹介しますね。凶悪犯の子たちの印象が変わります↓

 

jidobungaku.hatenablog.com

 

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また、濡れ衣を着せられてしまう放浪者トビーなのですが、彼は簡単にいうと戦争で精神をおかしくしてしまった心優しい人間。こういう元兵士たくさんいたことは、想像にかたくない。心優しいのに、殺さなきゃいけないんですもの、おかしくなります。一体、どんな過去が彼をああしてしまったのか。ヒントは書かれますが、詳細は書かれず、読者の想像力にゆだねられる。国にとっての英雄って、一体なんなんでしょうね……。

昔、大好きだったこちらの映画に出てくる森の中の放浪者ジョニー・Bと重なります。私の中では、トビーは完全にジョニー・B。よかったら、こちらもぜひ↓

 

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救いがないようにも思える『その年、わたしは嘘をおぼえた』なのですが、主人公の両親がとても素敵でした。ああ、こういう大人になりたい。自分はなれるだろうか?と問いかけをくれる物語で、これまた忘れられない一冊となりました。