Pocket Garden ~今日の一冊~

大人も読みたい、大人こそ読みたい、大人のための児童文学の世界へご案内

リアルな世界の優しさに触れたいのなら

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海ー!

新学期が始まりましたね!

長い夏休みが終わって、正直ホッとしている母たちも多いのかな(笑)。

 

一方で、最近は9月1日と聞くと学校に戻りたくなくて苦しんでいる子どもたちのことが頭をよぎります。現実世界は厳しい......そう思われがちだけれど!!!同時に優しさにもあふれている。

  

ファンタジーもいいけれど、リアルな世界の優しさを感じれる本を知りたい!というリクエストがあったので、こちらのブログでもご紹介しますねー。あげはじめたらキリがないので、一部を。

 

光を感じるためには闇が必要なように、優しさを感じるためには厳しい状況も避けられないんですよね。でも、いつでも助けてくれる人がいる。改めて児童文学は希望の文学だな、と思いました。

って考えると、ほぼ全ての本がやさしさにあふれてる(笑)。

 

『ピーティ』

何かを成し遂げようとか、何ができるとかじゃなく、存在しているだけで素晴らしいということを教えてくれる名作。実在のモデルがいるということで、余計にぐっときます。

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『ひいおばあちゃん』

年老いていくと、色々なことができなくなっていくけれど、尊さというものを教えてくれる、心に染み入る一冊です。ただ中古でも手に入らないし、あまり知られていないので図書館にあったら、ぜひ!!もっと知られてほしい一冊。

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『すえっこOちゃん』

ほっこりしたいときに。家族の小さなドタバタが楽しくて優しい世界。

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『ミンティたちの森の隠れ家』

ファンタジーではないという意味ではリアルだけれど、森の隠れ家での生活はちょっと非日常でワクワクします。ただ、出てくる人間関係にはリアルなやさしさにあふれていています。 

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『銀の馬車』

ジェリコの夏』

こちらも田舎で過ごす休暇で癒され、成長していく少女の物語ならこの2冊。人間のやさしさと自然の豊かさの組み合わせは最強ですね。

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『アラスカの小さな家族』

ゴールドラッシュ時代の物語。人種や文化の壁を越え、町全体が大きな家族みたい。理想の社会の姿がここにはあります。

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『小やぎのかんむり』

『よるの美容院』

『しずかな魔女』

現代日本だったら、市川朔子さんの物語は、どれもリアルな世界の息苦しさと優しさを描いていて大好き。取り巻く環境は息苦しいけれど、市川さんは多分性善説で人を信じているんですよね。まなざしがあたたかい。でも、厳しさも書いているから甘ったるくなくていいんだなあ。

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『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ』

歴史物です。志の高い人達がいたんだなあ、とこの世界も捨てたものじゃないと思えます。学生時代に読んでいたかったなあ。歴史が面白くなっただろうなあ。

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『スピリット島の少女』

大草原の小さな家先住民族バージョンと呼ばれる開拓時代の物語。ラストで優しさがあふれます。

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いい出会いがありますように!

 

 

 

 

 

想像上の友だちが最強のわけ

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『イマジナリーフレンドと』(2019年)ミシェル・クエヴァス作 杉田七重訳 小学館

 

白の余白中に赤がはえる表紙に惹かれて、手に取った一冊。

とても読みやすく、小学校高学年から、本が苦手な子でもスラスラ読めそうな物語でした。

 

イマジナリーフレンドとは、自分が生み出した空想のお友だち。

小さい頃イマジナリーフレンドが自分にもいたという人、実は少なくないんじゃないでしょうか。おかしな人と思われるから周りには言わないだけで。

 

さて、この物語がユニークなのは、視点がイマジナリーフレンド側からという点。

出版社からの紹介に

イマジナリーフレンドである自分の存在を自問自答し、自分を想像してくれた少女から離れて、様々な子ども達のイマジナリーフレンドを経験していくという新感覚のストーリー。リアルな生活の隣にあるファンタジーを軽妙に描きながら、最後は心震わすあたたかなエンディングをむかえる成長物語 

 

とあるように、ナルホド新感覚。

 

内容的には全然違うけれど、感覚的には映画『シックスセンス』を思い出しました。

自分が死んだことに気づいてない、成仏してない魂たちが、どうして周りが自分の存在を無視するのか不思議がる……それと似ています。

 

イマジナリーフレンド側からの視点といえば、こちらもあります↓

 

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『ぼくが消えないうちに』A.F.ハロルド著 こだまともこ訳 ポプラ社

 こちらはちょっとおどろおどろしい感じがするので、個人的には『イマジナリーフレンドと』のほうが好みでした。

 

ただね、悲しいかな。どちらもリアリティを感じるには、私は大人になりすぎてしまったようです。

 

 ■ イマジナリーフレンドは現実逃避?否!

 

さて、見えないお友だちがいると知ると、心配するのが大人。

現実逃避して、この子大丈夫......?って。

 

でもね、実はイマジナリーフレンドと会話するのって、現実逃避どころか自分と向き合うことにつながるんですよね。

 

スピリチュアル系で言えば、インナーチャイルドとかなんちゃらとかとの会話っていうのは、イマジナリーフレンドとの会話も同じだと思うんですよね。自己啓発系でも何でもいいんだけど、セルフセラピーになっているとでもいうか。要はこれって、無意識との対話。そして、自分を支え、慰めてくれるイマジナリーフレンドの存在は自己肯定感も高めてくれる(拍手!)。

 

小学生や中学生は自己啓発系みたいな本を読まないだろうけれど、実践していることは同じ。だから、イマジナリーフレンドを持ってる子って、精神的に強いと思う。

 

ぼくは、だれかの人生を変えるのに自分が本当に役に立ったという、そのほこらしい気持ちをずっと持ち続けていたかった。それを思い出すと、ほんの少しだけど、自分はだれにも見えない存在ではないと思える。(P.188)

 

これはイマジナリーフレンド側の言葉です。でも、人間も同じだと思う。

人の役に立てるって喜びで、自分の存在意義を確かめられるんだと思います。

それは、他人軸というのとはまたちょっと違う。

 

喜びの人生を。

 

 

 

 

アラジンはどこ舞台?

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トルコに造詣が深い児童文学作家・新藤悦子さんのお話を聞きに、千葉の柏まで行ってきました!

 

不思議ですよね。楽しいことだと時間があっという間に過ぎてしまうのと同じで、好きなことのためなら距離をあまり感じないという。

ニコニコでフットワークが軽くなる。とにかく夏の外出が苦手で、鎌倉市内でもひぃふぅ言ってるのに(笑)。

 

会場は、柏の素敵な児童書専門店ハックルベリーさん。

いつも興味深いイベントをやっていらっしゃいます。看板も素敵~↓

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ハックルベリーさんの選書も大好きで、品切れ状態の名作『ピーティ』を発見!

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嬉しいなあ。

中古でしか手に入らないと思っていたので、さっそく言語聴覚士になる勉強をしている里子ちゃんへのプレゼントに。

 

さてさて、新藤悦子さんによるアラビアンナイトの解説。

物語の背景を知れるというのは、大人ならではの楽しみだなあ。

ちなみに色んなところから出版されていますが、挿絵含め新藤さんのイチオシは福音館古典童話シリーズのものだそうです。

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アラビアン・ナイト』ケイト・D・ウィギン&ノラ・A・スミス編 坂井晴彦訳 福音館書店



物語が語られていた時代の人々の流動性たるや!その壮大なスケールに改めて驚きました。だって、今みたいに飛行機があるわけじゃないんですもんね。

 

実は『アラビアンナイト』には収録されていなかったという『アラジン』(『アリババ』も)。舞台は中国なんだそうです!映画やミュージカルで描かれているアラビアンな雰囲気とは、実際は違うんですね。上記福音館の挿絵はちゃんと中国になっているそうですよ(ただ、当時の中国が挿絵画家が分からなかったので、当時にはなかった弁髪が描かれているそうですが笑)。

 

で、魔法使いはチュニジアやモロッコ辺りから、当時星占いとセットで人気だった土占いによって、はるばるアラジンを探しに来るのです。この魔法使いとは、ダルヴィーシュと呼ばれる世界中を旅していたイスラム神秘主義の托鉢僧のことで、決してファンタジーではないんですって。

 

そんな興味深いお話をたっぷりお聞きしたあとは、もう一つのお楽しみ、軽食タ~イム!

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食いしん坊にはたまらない企画です(笑)。ケバブサンド、お庭でとれたイチジク、デーツにブルーチーズを挟んだもの(←これワインにぴったり!)、ハルヴァ3種類(トルコ菓子)。美味しかった~。

 

本当は、このあとトルコ式コーヒー占いというのをしてくださったのですが、私と友人は遠方のためタイムアウト

見たかったなあ。

 

心もおなかも満たされたアラビアンナイトでした。

 

 

 

歴史小説を読む意味

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『太陽と月の大地』(2017年)コンチャロ・ロペス⁼ナルバエス作 宇野和美訳 松本里美画 福音館書店

 

今日の一冊は、スペインで読みつがれてきた名作。

昨年2018年の課題図書にもなっていました。

 

毎年課題図書はいいのないなあ、と思っているのですが(←何様!?)、昨年は当たり年だったなあ。

 

さて、この物語も私の中では“児童文学あるある”でした。

どう、“あるある”かというと、あらすじだけ読んでもそんなに興味を持てないんですね。特に歴史物は個人的にあまり得意ではなくて……。

が!!!読んでみたら、いい意味で裏切られるのです。

 

本当にいつも思うのですが、児童文学においては、あらすじにまどわされないこと。

何が描かれているかというよりも、どう描かれているかだから、あらすじに興味なくても引き込まれていることがほーんと多いんです。

 

さて、そんな私が興味をあまり持てないあらすじ(笑)はどういうものかというと……

 

《『太陽と月の大地』あらすじ》

 

舞台は16世紀のグラナダ

1429年にスペイン後はカトリック両王と呼ばれたイザベル女王とフェルナンド王が、それまでイスラム王朝が支配していたグラナダを制圧し、スペインを一つの王国として治めます。数年の間は、宗教や民族の違いを超えて、同じ土地で共に平穏に暮らしていたのですが、やがてキリスト教が強引で無理解な態度を取るようになると、イスラム教徒たちは1500年に反乱し、ついには1611年までにはイスラム教徒たちは完全に国がちに追放されることに。キリスト教徒のアルベーニャ伯爵一家と、そこに仕えるイスラム教徒のエルナンドの一家は、身分の違いを超え、深い友情で結ばれていましたが、両家もやがて宗教の対立に巻き込まれていきます。友情と怨恨、裏切りと中世が入り乱れた苦難の時代を描く。

 

 

 

まずですね、人物相関図や地図があって嬉しい。スペインの文学はあまり馴染みがないので、名前も覚えづらいので、最初に登場人物一覧があるのも、ありがたい!

 

 ■ 人が人でなくなるのが戦争

 

ところで、私たち日本人は、キリスト教に対してはあまり悪いイメージは持っていないのではないでしょうか?何となく反乱を起こすのはイスラム教徒のイメージ。

だって、歴史上イスラムの反乱とは言われても、キリスト教徒による虐殺、とはあまり書かれないですもんね。そういう意味でも、こちらはバランスの取れた物語。

この物語を読むと、この時代のキリスト教徒がいかに不寛容で残虐かが分かります。

 

ただ、それだけではない。いつの時代も、どちらの側にも戦いを利用して、ただただ攻め込みたい“好戦好き”がいることも描かれています。そして、分かるのは、どんな理由や正義があったにせよ、いったん戦争が始まってしまったら、人は人でなくなり、兵士でない犠牲者が続出するという理不尽な現実。

 

 ■ 人は違いを超えて共存できる

 

どうしても悲劇のほうに目がいきがちですが、私は争いが起こる前の平穏な時代に感心しました。なんだ、共存できるじゃない、って。

 

北風より太陽なんだなあ、やっぱり。北風は反乱を呼び覚ます。こういう歴史小説を読むとそれがよく分かります。甘やかしたら国を乗っ取られる?

いえいえ!!やっぱり、憎しみや恨みは何も良い結果を生まない。

 

個人的にはエルナンドの祖父とマリアの祖父の友情物語に、とても感動しました。

森での出会い。本気のケンカの後の認め合い、夜明けに人気のない山頂まで登ったこと。気づいたら私も一緒に登っていました。そこで見た景色、私も忘れない。こういう思い出は一生自分を助けてくれますよね。

 

人けのない頂の美しかったこと!城も塔も家もはるかかなたにある。

人がつぶのように小さく見える。遠くから見れば、キリスト教徒もモリスコも区別がつかない。みんなただ、人間というだけだ。(P.113)

 

 

愚かな歴史は繰り返さないよう、私たちは学びたい。

大人の文学だと、感情をゆさぶろうという作者の意図が強すぎたり、変に美化されていたり、もしくは反戦の主張を強く押しつけがち。

 

児童文学は淡々としていて、一見物足りなく感じるかもしれませんが、自分で物語の中から何かを感じ取り、つかみ取る、より能動的だからこそ、じわじわと自分のものになっていく気がします。

 

今の世の中どうなっていっちゃうの?と不安に思ったとき、歴史小説を読むとどうすべきかが分かる。教科書の歴史からは本当の姿は見えない。当時の人々の様子を伝えてくれる物語の力を、改めて感じました。

 

 

 

 

貧しさから抜け出すには

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『レモネードを作ろう』(1999年)ヴァージニア・ユウワ―・ウルフ作 こだまともこ訳 徳間書店

 

気温21℃苗場の避暑地から、湿気天国(笑)の鎌倉へ戻ってきました。

行ってる最中に、稲村ヶ崎の海沿いの歩道は陥没するし、悲しい……。

悲しいながらも、どこか人工物の影響で変化する地球の異変に鈍感になってきている自分もいる。だからこそ、読書をしようと改めて思いました。色んな感覚に鈍感にならないためにも。

 

さて、今日の一冊は、タイトルと表紙画こそ夏らしく爽やかですが、何とも胸の痛む物語でした。

 

《『レモネードを作ろう』あらすじ》

 貧しさに埋もれたこの町を出て、いい職について、いい暮らしをしたい。それには大学へ行かなくちゃ。でも、うちにはそんなお金はない。だから、ベビーシッターのバイトを始めた。学費の足しになるように。バイト先の二人の子どもの母親は、わたしとたった三歳しか違わない十七歳のジョリー。学校にもまともに行っていなくて、字もちゃんと書けなくて、仕事もすぐにくびになる、ジョリー。わたしはジョリーたちの暮らしにかかわるうちに、なんとかしてあげたい、と思うようになった…。現代アメリカが抱える問題に真正面から向き合いつつ、前向きに生きる若者たちの姿を明るく描いた話題作。ゴールデンカイト賞、全米学校図書館協会YA向けベストブック、スクールライブラリージャーナル誌ベストブック、子ども学研究センター賞など、受賞多数。(BOOKデータベースより転載

 

 

 

出版時は、さまざまな賞を受賞したようですが、中古か図書館でしか読めない模様。

14歳の主人公の一人称語りで、文体は読みやすいのですが、読み進めるのがつらかったワケ……それは、臭いと見た目の不衛生さに耐えられなかったからです。

 

 

■貧困は五感で苦しむもの

 

17歳2児のシングルマザーのいる環境、それは……汚い。

 

とにかく汚い。

読んでいて吐きそうになるくらい。

ゴキが苦手中の苦手なんです、私。

ゴキの描写や床にある食べこぼしとか、ああムリ。

 

それでも、以前は道路で段ボール暮らしだったのだから、アパートに住んでいるだけジョリーにしてみたら、まともな生活にランクアップなんです。

 

で、気付いたんですよね。

 

今までも、貧困を始めとした苦難のうちにある子どもの物語はたくさん読んできたのですが、そのほとんどが、心理的苦悩の描写だったんだなあ、って。ここまで不衛生な環境の描写があるのは初めてだったかも。

 

彼らの苦しみは、心理的なものだけじゃない。

臭いや目に飛び込んでくる不衛生な環境、五感をフルに使った苦しみだったんだ!!!

という当たり前のことが、今回この物語で初めて実感できました。

 

 

■田舎と都会の貧困の違いとは?

 

もう一つ、今回考えさせられたのは、田舎の貧困と都会の貧困の違い。

 

前回ご紹介した『タイガーボーイ』も貧困家庭の物語です。

 

jidobungaku.hatenablog.com

 

でも、都会のそれとは全然違う。

 

田舎の貧困は、作物は搾取されるかもしれないけれど、豊かな自然環境の中にはいられるし、家族や周りの人たちとの絆がある。けれど、都会の貧困の場合は、自然とも家族とも、いろんな“つながり”の断絶があるんだなあ。そして、その断絶は孤立を生み出す……。

 

自然から切り離されたとき、人は“不自然”な生活になるんだなあ。

 

 

とはいえ、どちらの貧困も闇が深い。

抜け出すには一体どうすればいいのか。

 

 

■抜け出した人が偉いのか?

 

抜け出す方法は、いくつかあると思うのですが、やっぱり学ぶことなんだと思う。

 

ドラッグディーラーやチンピラになることは、いったんは貧困から抜け出し、お金を手にすることができるかもしれないけれど、利用されている身はいずれ滅ぼされてしまう。待っているのは悲しい運命なんですよね。

 

でも、ただただ真面目に働いても搾取される。

さらに女性はそこにセクハラも乗っかってくることもある。

騙されないための知恵や知識が武器になるから、学ぶ必要があるんですよね。

 

感心したのは、学校にシングルマザーのための託児つきクラスがあること。

サポート体制がちゃんとあるんです。すごいなあ、アメリカ。

 

……ん?すごいのか?

でも、それって、裏を返せばクラスができてしまうくらい、そういう子どもたちがいるってことでもあるんですよね。複雑です。

 

ところで、この物語の中で主人公のラヴォーンは葛藤します。住んでいる地域自体が貧困の町で、そこから抜け出すために大学を目指すのです。でも、自分の中の偽善に気づいて苦しむ。

 

自分はジョリーを利用しているのだろうか?

 

ジョリーからもらうバイト代で、ジョリーみたいにならないための切符を買おうとしている(大学に行って、この町から抜け出す)のは、間違っているのではないか?

 

14歳にしてそこに気づくとは、ラヴォーンすごい!さらにすごいのは、ジョリーの環境や背負ってるものはかわいそうかもしれないけれど、だからといってジョリーの生き方、ジョリー自身が否定されるべき存在ではない、と気付くところ。

 

ジョリーはジョリーなりにしっかりしているんだ、と思った。

母さんがいいと思うような生き方じゃないけど、

これもまたひとつの生き方。

こんなふうな生き方をしてたら、ここから抜けだすことはできない。

でも、こういう生き方だってあるんだ。(P.242-243)

 

 

環境は変えたい!でも、ジョリーはジョリーのままで尊くて、その生き方はリスペクトに値するんですよね。ことあるごとに、ジョリーがつぶやいていた言葉、

 

「誰も教えてくれなかった」

 

 

そうなんです。色々知らなかっただけなんですよね。知らないから選択もできなかった。大人の責任を感じます。

 

タイトルにあるレモネードのエピソードは、作者の深い思いと願いを感じ、胸を打ちます。

 

私たちはいつだってやり直せるし、努力できる。

そう、励ましてくれる物語でした。

 

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jidobungaku.hatenablog.com

 

 

 

 

 

やる気が出ないときに

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『タイガーボーイ』(2017年)ミタリ・パーキンス作 永瀬比奈訳 鈴木出版

 

暑い!今日の一冊は、もっと暑いインドから。

 

暑くて読書する気が起きない、とにかく簡単で直ぐに読めて、それでいてちょっと考えさせられる内容のものをお探しでしたら、おススメはコチラ!

 

【ポイント】

・短い

・字が大きい(←アラフォー以上にも優しい笑)

・異文化を体験できる

・自分だったら?と考えさせられる

・環境問題について考えさせられる

・読んだ後自分も何か努力したくなる

 

 

大好き!鈴木出版の海外児童文学、この地球を生きる子どもシリーズです!

ミタリ・パーキンスは、同じシリーズから他にも同じく短編の『リキシャ★ガール』や、ちょっと長めだったらこちらも出しています↓

 

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『タイガーボーイ』あらすじ

学校で一番成績がよいニールは、地域でトップになって奨学金を勝ち取り、インドの大都会の私立中学校に進むことを校長先生から期待されている。けれど、算数だけは苦手で、どうしても気が入らない。それよりも友だちと泳いだり遊びたいし、何よりも大好きな家族や生まれ育った島から離れて、大都会へなんて行きたくない。そんなある日、保護区からトラの子が逃げ出したというニュースがとどき、島じゅうでトラの子探しがはじまる。島の成金グプタがブラックマーケットにこっそり売るためにトラの子を狙っていると知ったニールは、なんとかしてグプタたちよりも先にトラを見つけ、レンジャーに手渡すために奔走する。

 

 

 

善人、悪人が分かりやすくて、ちょっとステレオタイプかな?とも感じたのですが、でも、インドって実際こんな感じなんですよねえ。漫画に描いたかのような人間関係。

 

大人が読むと、二―ルの父親の葛藤が我がことのように感じます。

子どもの未来を自分の貧しさのせいで潰したくない!そのためには、時には信条を曲げてでも汚い仕事に手を出すべきか否か......。これ、さらっと書かれていますが、本当に親として悩み苦しんだだろうなあ。

 

■人生にはお金よりもだいじなことがたくさんある!

 

これは、ニールの叫びです。お金のためにグプタの手下になった父さんに対して、こう叫んだのです。

そんなニールと姉のルパの毅然とした態度に、目が覚めるわけなのですが、それもそういう子たちに今まで育ててきたからこそ、なんですよね。どれだけ二―ルとルパが父親のことを誇りに思って入るか。決して物質的には豊かではない生活の中で、本当に大切なものを教え続けてきた父。

 

ふと、現代日本社会で、ニールの父親のように尊敬されている父親がどれだけいるだろう、と考えこんでしまいました。みなお父さん大好きだろうし、それなりに尊敬もしているとは思うけれど......。ニールたちの暮らしや家族関係と比べて、何かが欠けているような気がしてしまうのです。

 

■動機づけがあればエンジンは自然とかかる!

 

そして、もう一つ大切なことをこの物語は教えてくれます。

どんなに才能があろうとも、モーチベーションがなければ、人は気が入らないんですよねえ。

 

では、一体どうしたら、やる気スイッチは入るのか?

今やる気がなければ、現状維持ではスイッチ入らないのは当然ですよね。

スイッチを入れてくれるのは、やっぱり新しい人との出会いだったり、視野が広がるできごととの出会いだったりするんですよねえ。そして、それらは行動することによってしか得られない。ニールの場合は、レンジャーとの出会いだった。

 

大事なのは世界を広げること。

違う角度から物事を見てみること。

 

最初は、いけ好かないパワハラモラハラ気味かと思われた校長先生も、実は志の高い人だったことが分かってホッとしました。

 

そして、ほとんど描かれていないけれど、ニールの姉ルパがとっても気になりました。ルパは勉強したくてしたくてたまらないんですよね。でも田舎の貧しい女子だから諦めなければならなくて、チャンスがあるのにつかみ取ろうとしない弟にイラつく。

ルパ側からの物語も読んでみたいと思いました。

 

やる気でない、動機づけないなあ、と思ったら、とにかく何か行動してみる!人と出会い視野を広げるために。そう思わせてくれる物語でした。

自信がないからそうさせない

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ヒットラーのカナリヤ』(2008年)サンディー・トクスヴィグ作 小野原千鶴訳 小峰書店

 

昨日は長崎の原爆の日でした。

小学生のころに映画化もされた永井隆さんの『この子を残して』を読んだことは、強烈な印象で残っていますが、そういえば長崎の原爆に関する本ってあまり知らないことに気づきました。

 

さて、今日の一冊は、デンマークの物語です。

タイトルのヒットラーのカナリヤとは、BBCラジオで言われていたこと。デンマークは、鳥かごにいれられて、ヒットラーにいわれるがまま歌を歌わされているヒットラーのカナリヤだ、と。

 

■戦争に関する悲しみに優劣なし

 

私ね、たくさんの戦争児童文学を読むまでは、心のどこかで○○のケースは△△のケースよりマシとか、思っていた気がします。例えば分かりやすい例で言えば、ホロコーストに送られるユダヤ人より、疎開できたユダヤ人のほうが恵まれてるよね、とか。

 

でも、読めば読むほど戦争というものは、そんなもんじゃあないことに気づかされます。戦争においては、“マシ”なんてないのです。自分の身近な人が亡くなったら、心の傷に優劣はないんですよね。

 

 ■どの国にも善人悪人がいてその区別は難しい

 

今日の一冊は、第二次世界大戦中、デンマークで起きたレジスタンスの物語。

10日間におよぶデンマークユダヤ人の救出劇。デンマークユダヤ人の友人たちを救うために、たくさんのデンマーク人たちが命をかけて立ち向かうのです。これが、実話に基づいているというからスゴイ。

 

実は、最初の30ページくらいまでは、いまいち物語の世界に入りこめなかったのですが、そこからは一気読みでした。うーん、いまいち合わないかなあ、読みづらいなあ、と思っても、とりあえず30ページくらいまで読み進めてみてください。 

 

途中から、手に汗握る展開!

1943年何月のできごと、という風に章が書かれているのですが、もうね、こちらは1945年に終戦って知ってるから、あと2年!早くすぎろー、って祈るわけです。

 

でも、ゲーム感覚じゃないんですよね。主人公のバムスは何が正しいのかどうすべきか分かっていながらも本当はとても怖い、できればやりたくないというところがとても共感できるんです。

 

そして、この物語の中で繰り返し語られていること。

それは、すべてのドイツ人が悪人で、すべてのデンマーク人が善人だったわけではない、ということ。どちらにも、いい人もいれば悪い人もいて、その境界線を引くのは簡単ではないということ。そう、家族間ですらも。とても緊迫した状態です。誰を信じたらよいのかワカラナイ。

 

ドイツ兵の幹部でも見逃すことに積極的だった人たちがいたことは意外でした。

そして、最も反ユダヤ人運動に熱心だったのは、占領軍に対して手を貸す立場にあった、デンマークナチスだったことも。

 

国じゃない、結局は、人間一人一人の問題なんですよね。

 

最初、主人公の父親は家庭を守るために、何もしないことを選択します。その気持ちも痛いほど分かる。それでも、実際に理不尽な場面を目の当たりにして、何かをしなければいけない!と思い直すのです。

 

自分だったら果たしてできるのか、自問自答せずにはいられませんでした。

 

 

■自分らしく生きるとは

 

もうひとつ、この物語で印象的だったのは、自分らしく生きるというテーマ。

バムスのママは女優さん(このお母さんのキャラがいいんです!)。

芸術家や芸能関係の人ってゲイの人が多いのですが、ママの親友でもあり衣装担当であるトーマスの存在です。

 

いわゆるお姉言葉で話すトーマスに対し、バムスの兄で正義感に燃えるオーランドは、男なのにトーマスは男らしくないじゃないか!と言い放つのです。それに対するママの言葉が素晴らしかった。

 

「男らしいってどういう人のことをいうの?どういう人が男らしいの?」ママはくりかえし、最後にこう言った。「簡単にいえば、それは、自分らしくある人のことじゃないのかしら」(P.33)

 

実は、これペールギュントイプセン)からの言葉。ママはいつも舞台の台詞の言葉を引用するんですね。自分があるんだかないんだか。でも、最後には捨て身で、とてつもない勇気を見せる、最高のママなのです!好きだわあ、このママ。

 

また、ナチスよりでそれからレジスタンス側に転向したパパの兄、ヨハンおじさんもどうしてもトーマスのことを受け入れられません。なんでヨハンおじさんはトーマスを好きじゃないの?と問うバムスに対して、父さんはこう答えます。

 

「バムス、世の中には自分とちがうものに対しては、それがなんであれ恐怖を抱く人がいるんだ。その対象は、ユダヤ人だったり、ジプシーだったり、魔女だったり、とにかく理解できないものすべてだ。でも、だれにでも、ありのままでいる権利がある。そのために、僕たちが立ちあがらないといけないんだ。そうしないと、いつの日か、自分がほかとちがうことで、のけ者にされる日がくる。そのときにだれも助けてくれる人はいなくなってしまうんだ」(P.221)

 

最後のトーマスの決断は、ドラマチックというよりもとても静かな場面でした。静かで人間の尊厳を感じる場面。号泣でした。

 

 

■自信がないからこそ事前に食い止める

 

この物語には巻末に解説があって、そこでは淡々と数字と事実が述べられているのですが、そこでもまた涙が止まりませんでした。

 

市民たちの救出劇のおかげで、デンマークユダヤ人で亡くなったのは全体の2%以下だったそうです。すごい!!!それでも、やっぱり犠牲になった人たちはいるわけで、パーセンテージの問題じゃないんですよね。

 

本当にすごい人たち。

 

怖がりの私は、もし同じ状況になったら、情けないけれど同じようにできる気がしません。

この物語に出てくる勇気ある子どもたちは、本当に本当にすごい!!!子どもですよ?

私自身に関して言えば、どうするべきかが正しいかは分かってはいるけれど、保身に走らない自信が正直言ってないんです。

 

だからこそ、そんな状況を生み出さないよう、今できることをしなければいけないと強く思いました。まだ戦争は始まっていないのですから。自信がないからこそ、そういう状況を生み出さない!

 

色んな人に読んでいただきたい素晴らしい物語でしたが、悲しいかな、絶版です。

中古(33円から!)か図書館でぜひ探してみてください。